研究課題/領域番号 |
15K03324
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
松本 佐保 名古屋市立大学, 人文社会系研究科, 教授 (40326161)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 冷戦 / 安全保障 / キリスト教イデオロギー / 宗教 / 米欧関係 |
研究実績の概要 |
本年度は「冷戦期の米欧安全保障政策とキリスト教イデオロギー」の研究課題の初年度として、以前の研究でバチカンを頂点とするカトリック教会の冷戦時代における役割についてイタリアのキリスト民主党の役割を明らかにしたが、今回はプロテスタントも含むドイツのキリスト教民主同盟に関わって、欧州の安全保障政策について明らかにすると共にアメリカの関与についても調査を行った。 欧州ではイギリスの公文書館や英国国教会の文書館で一次史料を入手し、キリスト教の理念と安全保障政策の関連性を明らかにしようと試みた。またアメリカではレーガン時代の軍事・安全保障政策とキリスト教ロビーの関係性をさぐるために、カルフォルニア州のシミ・バレーのレーガン大統領図書館付属のレーガン・ペーパーを所蔵する文書館で、レーガン大統領選出にあたって動員されたキリスト教票、キリスト教ロビーについて詳細な調査をおこなった。これによるとプロテスタントの主流派だけでなく特に福音派の台頭に伴って彼らの票が動員されたことがわかり、さらにアメリカでは少数派であったカトリックが70年代後半から共和党と民主党支持に真っ二つに分かれ、保守化したカトリック・ロビーが共和党レーガンに投票し、大統領就任後も彼のタカ派的な安全保障政策を支持したことが明らかになった。欧州でもアメリカでもカトリックと共にプロテスタントのキリスト教ロビーが、反共産主義の理念を共有し対ソ連の軍事・安全保障政策を基本的に支持する立場であったことが明らかになった。勿論一部のリベラルなキリスト教団体が反戦運動や反核運動に関与したことも事実ではあるが、米欧外交関係に見られる安全保障政策全般という意味では、ソ連や東側の共産主義勢力に対しての強硬な政策を支持していた。 上記の内容の研究を行うために主に海外への調査旅費として費用を使い、論文や学会・研究会での報告という成果と実績を出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね研究計画通りに調査と研究は進んでいる。ただ欧州諸国のキリスト教理念やイデオロギーがその政治や外交・安全保障政策に与えた影響以上に、アメリカのキリスト教イデオロギーやそのロビーの安全政策に与えた影響は想像以上に大きく、その重要性を再認識すると共に、アメリカのあらゆるキリスト教ロビーについて当初の計画以上に深く掘り下げる必要を感じた。 調査を行ったアメリカのカルフォルニア州の南部オレンジ郡やシミ・バレーは保守主義が強く共和党の支持基盤があり、軍需産業が盛んであり、またメガ・チャーチ(巨大な福音派の教会)も存在する。そうしたことから軍需産業と福音派の教会の関わりも明らかにすべき問題であることに気付いた。しかしあまりアメリカの国内の産業と政治と宗教の関わりを深く掘り下げると、本研究テーマからずれてしまうのでこの問題も意識しつつ、あくまでも米欧の外交・安全保障政策の枠組みで研究を進めることにつとめ、ここでの新しい発見は別の場や次の研究課題とする。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は上記の現在までの研究の進展状況を踏まえて、特に欧州だけでなくアメリカでの調査を背景として、バチカンの文書館やバチカン関係者へのインタビューなどの聞き取りも行い、バチカンと米国との関係、バチカンの欧州諸国との関係を再度見直し、従来の研究では明らかにされてこなかった冷戦時代のキリスト教イデオロギーと安全保障政策をめぐる米欧関係を再定義することを今後の研究推進の方向性とする。 再びバチカンや欧州での調査、そして米国の今度はワシントンの米国国立公文書館や米国議会図書館にある、米国の特別使節であったマイロン・テーラーの書簡を閲覧し、バチカンだけでなく英国国教会や他のプロテスタント教会の聖職者とのやり取りを明かにし、米国の対欧州安全保障政策にいかなる影響を与えたかを明らかにする計画である。
|