研究課題/領域番号 |
15K03324
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
松本 佐保 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (40326161)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 冷戦 / 宗教 / 安全保障 / 宗教紛争 / 地政学 |
研究実績の概要 |
平成28(2016)年度はバチカンや英国の公文書館、米国の公文書館での史料調査に加えて、ジュネーブの国際機関の史料調査を行った。国連や赤十字だけでなく、国際労働機構での調査が予想以上に大きな収穫となった。公開されている史料が英国や米国、バチカンでは30年ルールがあるために、冷戦終結後の史料を見ることを制限されているのに対して、国際労働機構の文書館では冷戦終焉やその後の史料の閲覧が許されており、こうした国際機構とバチカンなどの宗教的な組織との関わり、また英米さらにソ連などの主要国との関わりを明らかにするのに不可欠な史料を入手することが出来たからである。 冷戦期から冷戦終焉後にかけての宗教と国際政治の秩序の関係がどのように再構築されたかを、これらの新たに入手した史料を使用して9月の上旬には、イギリスの国際関係史学会で報告し、また日本では国際政治学会で発表する機会を得た。どちらの学会でも概ね好意的な評価を得て、学会雑誌に投稿するようにすすめられ、それを3月に提出し、現在審査中である。 またアメリカ大統領選挙との関わりで、宗教の問題と選挙がどう関わるかなどの宗教研究もすすめ、こちらについては6月に単著を出版した。結果的にトランプ大統領に多くの宗教票が流れたことから、冷戦期からポスト冷戦期、そして現在に至るまでの宗教と国際政治の関わりを論じる機会に恵まれ、多くのフィードバックをもらうこととなり、研究の推進と発展にとって大変有用な年度となった。本研究課題とっては2年目になることで、最終年度の来年度に向けてのビジョンを明らかにすることが出来たといえる。 学会の動向にも本研究は影響を受け、例えば地政学研究の多くの研究実績が出されていることから、本研究課題は安全保障に関わる点で、また宗教紛争も中東地域などの地理的な条件があるからである。こうしたことが研究の発展に繋がる点はメリットと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究内容な発展は現在の国際情勢から大いに影響を受ける可能性がある。例えば米大統領トランプ政権の誕生である。キリスト教保守の票の多くがトランプを支持したことから、宗教と政治、そしてトランプ政権が着手した移民・難民政策との関わりである。キリスト教な価値観がイスラム教徒の難民の流入で脅かされる可能性がある、あるいはイスラム教原理主義者はテロを起こす可能性があるので、安全保障上の脅威となるという説明がなされているからである。 またトランプ政権のシリア内戦への関与は宗教と安全保障に関わる政策である。 こうした国際情勢の大きな変化にも本研究は影響を受けるものの、本研究課題は冷戦時代の宗教と安全保障という歴史研究である。そうしたことから、その信念を持って取り組むことは前提条件であるが、学会発表などでのフィードバックではこうした国際情勢からの影響による発言やコメントをもらうこともある。 スイスのジュネーブでの史料収集でも予想以上に素晴らしい史料を発掘することが出来て、それが計画以上に研究が進展している理由である。ジュネーブにある多くの国際機関である国連だけでなく、赤十字、国際労働機構での新しい史料の発見は研究の発展に大きく貢献しているからである。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように計画以上に研究が進展していることはありがたいことであるが、一方で研究方向方や方法などについて慎重さも要求される。 新しい史料の発掘や新たなる国際情勢の進展に本研究の推進は影響を受けるが、あまりこれらに振り回されて研究が思わぬ方向に進んでしまうことを自制することも求められる。さもないと本研究をまとめることに支障をきたすからである。 そうしたことがないように最終年度は再度ジュネーブでの史料調査、アメリカやイギリスでの史料調査及び学会発表を行うが、まとめや総括を行うことを意識して、研究が広がり過ぎないように留意しながら、行う予定である。フィードバックを受けてもそれらを全て採用するのではなく、選択的に研究の方向性をきちんと見据えて行うことが必要であろう。 そして出版社とは本研究課題について研究書としてまとめて単著として出版する話があり、これについても慎重に編集者と話を進めていく予定である。
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