本研究課題はバチカンの様な宗教的な組織が冷戦時代の安全保障の問題にどう関与したかを明らかにするものである。最終年度である2017年度には英国のキール大学で開催されたBritish International History Group学会で、またポルトガルのリスボン大学で行われた国際会議で、また明治学院大学で行われた研究会で成果報告を行った。そのため科学研究費の用途は主に国内及び国外の旅費として使用した。 これら学会や研究会で成果報告を行った具体的な内容とは、冷戦期におけるバチカンの国際政治における役割は単に反共産主義であっただけでなく、欧州安全保障協力会議(CSCE)が形成されるに至った1975年のヘルシキン会談への参加を通じての東欧の共産主義国との対話に貢献した。1975年のヘルシンキで行われた、欧州安全保障協力会議の元々の起源は、教皇ヨハネ23世の影響のもとで発案され、キューバ・ミサイル危機に介入したバチカンは、安全保障の問題にも関与した。第二バチカン公会議閉会式の1965年に国連に加盟し、また欧州諸国の経済的協力の強化、文化交流、共同の技術開発、人権裁判などが教皇パウロ6世によって提唱された、その後実行に移されたのである。 こうして1975年7月~8月、欧州の東西両側と中立国の33か国、それと米国とカナダを入れて35か国の首脳がヘルシンキに集まった。そして「デタントから安定へ、そして恒久的平和」を目指したが、バチカンはとくに、人権及び思想、良心、宗教、信条の自由を含む基本的自由の尊重について、東西が一致するように働きかけた。また国際法によって、他国において人権が著しく侵害される場合、第三国が介入(防衛・防御)出来るという取り決めが出来た。従来あまり議論されていない宗教と安全保障の関係性について、本研究では明らかにすることが出来た。
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