研究実績の概要 |
最終年度の研究成果は 'Rethinking the Traditional East Asian Regional Order: The Tribute System asa aset of Principles, Norms, and Practices' in Taiwan Journal of East Asian Studies (Vol. 14, No. 1, June 2017, pp. 119-170)である。 近年、中国や欧米では(冊封)朝貢体制の実像を探るべく、その多様な側面と機能を分析考察する一群の研究が次々と出現している。しかし、これらの研究のもつ大きな欠陥を言えば「朝貢体制の原理、規範、慣行」にはほぼ触れていないことである。その欠陥を補おうと試みたのが本研究である。 まず、朝貢体制の重層性を捉えて整理し、また中国の下位体制として朝鮮型の事大交隣体制の実像を明らかにした。次に、儒教の秩序原理を思想史的に検討し、朝貢体制の原理として公天下、礼・理などの概念を再考察した。それによって、朝貢体制の原理的特徴を明らかにし、既存の誤解や偏見を問いただすことができた。関連して第三に、朝貢体制の位階(hierarchy)、固有の主権(sovereignty)観念を、最新の国際関係理論の成果を参照しつつ分析考察した。そうして既存の朝貢体制論や国際関係理論の新たな地平を開き、今なお根強い近代主義的理解の問題点を指摘した。それはまた、東アジア発の国際関係理論の「発明」にも役立つのだろう。最後に、朝貢体制の崩壊とその原因を批判的に省察したうえ、中国の台頭をどう捉えるかを問いつつ、将来の東アジア地域秩序の構想と構築について考えてみた。その際、朝貢体制の枠組は復活不要であっても、その秩序原理、規範などは貴重な伝統の遺産として修正・活用が必要なのではないかという問題を提起した。
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