平成29年度は、前年度まで延期されてきた米国への出張を行い、米国の現段階での包括的アプローチの体制と実施について、聞き込み調査、資料収集を行った。また、ロシアの台頭により、防衛体制が大きく変遷しつつある欧州の現状をさらにモニターするため、オランダと英国にも出張(短期)を行い、包括的アプローチをめぐる体制の現状の把握に努めた。さらに、研究全体の成果として、調査対象の三ヶ国(英米蘭)の包括的アプローチの統合・分離の度合いについて、比較的観点から評価をした。 米国の包括的アプローチについては、軍からの視点と文民からの視点双方をサーベイするため、米陸軍(ドクトリン担当部署)、国務省(地域デスクとドクトリン担当部署)、開発庁において聞き込み調査を行なった。また、関連ドクトリンの改定状況及び具体的事例について調査し、理論と実証双方からの調査を試みた。一般に、安定化と防衛関与(能力構築支援を含む)が地理的に拡散する傾向が見られ、包括的体制については、国務省の調整機能が弱まり、後退と評価できるであろう。特に、安定化に関する政策枠組みの不在が、オペレーションレベルでの包括的アプローチ概念と実施の体制一般に色濃く影響を及ぼしている。 蘭英では包括的アプローチへの政策的取り組みは維持されており、さらにハイブリッド戦略など今日的問題への同概念の適用が見られる。オランダでは統合アプローチドクトリンは特に改定されていないのに対して、英国ではドクトリン全般が平時体制の中で大幅に見直された。そのため、両国の間にかつて見られたドクトリン上の統合が現在ではあまり見られなくなった。英国においては、平時でのグローバルな安定化の戦略文書、下位概念が開発され、基金や防衛関与の体制も変遷した。その中で包括的アプローチは基幹的な概念として位置付けられており、統合度は一層増している。平時防衛体制の変換として示唆深い。
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