研究課題/領域番号 |
15K03334
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
栗崎 周平 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (70708099)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 集団的自衛権 / 日本外交 / 安全保障 / 抑止 / 国際紛争 / 実証分析 / ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績は以下二本の論文が刊行ないし刊行が決定したことに集約される。 [1] “Japan’s Changing Defense Posture and Its Implications for Security Relations in East Asia” (with Andrew Capistrano), Korean Journal of International Studies, 14 (1), April, 2016, pp. 77-104. [2] “A Signaling Game of Collective Self-Defense in the U.S.-Japan Alliance.” In Okada and Suzuki, eds., Games of International Conflict and Cooperation in Asia, Springer, 2016. 研究課題の申請において、学術研究の成果は国際査読誌に発表する一方で幅広い層の国民が関心をもつ政策課題を扱うため、社会に向けて発信するとした。以下の一般雑誌や一般向け書籍に上記論文[2]の分析内容を紹介した。 [3]栗崎周平 (2015)「集団的自衛権の抑止力について」長谷部恭男他編『安全保障法制の何が問題か』岩波書店および [4]栗崎周平 (2015)「「集団的自衛権行使による抑止力向上」は本当か」『世界』岩波書店9月号 これまで発表した上記論文4編は、理論分析が中心であるが、今年度は実証分析も大きく進み、その分析結果の概要の報告は以下のセミナーで報告した: 立憲デモクラシーの会(2015年9月9日早稲田大学)、国際政治経済ワークショップ(2015年9月25日神戸大学)数理政治学部会(2016年2月13日政策研究大学院大学)、早稲田政治経済学会(2016年3月4日)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2015年度に刊行もしくは刊行決定した論文[1]-[4]に加えて、防衛義務関係(集団的自衛権含む)と紛争行動のパタンの関係性に関する定量分析を行うことで、集団的自衛権をはじめ昨今の安保法制の政策効果の検証を、同盟や抑止についての実証研究の分析枠組みに拠って行ってきた。現政権が提示する政策目標を実施するためには、憲法の改正と日米安保条約5条の改定が必要となるであろうが、このような政策変更は、国際政治研究にとっても重要な示唆を得る分析対象を提供することが見越せる。そこで累計で6人の分析補助者を 雇いデータ分析を進めた結果、分析はほぼ終了。具体的には同盟デザインにおける防衛義務関係を片務的なものから双務化することで、以下のような効果が実証的に確認された: (1)有事に際して同盟国が介入し軍事援助を提供する蓋然性を高める効果は確認できない、(2)拡大(緊急)抑止の成功に寄与することは統計的に確認できない。逆に、防衛同盟の存在は拡大緊急抑止の失敗の可能性を統計的に有意に押し上げる、(3)軍事的挑発や威嚇を受けるリスクを下げることは確認できない、(4)軍事紛争のターゲットになる確率を統計的に有意に上げる、(5)軍事紛争を開始する可能性を抑制する効果が統計的に有意に確認できる、(6)他国の軍事紛争に巻き込まれる可能性は19世紀においてのみ確認できる減少であり20世紀以降では確認できない。
その他、集団的自衛権をはじめ安全保障政策の転換による、拡大抑止政策への影響、日米軍事協力(共同訓練の充実化など)の戦略上の効果、安全保障のジレンマへの影響などの(ゲーム理論を使った)理論分析もテンポ良く進んでおり、今年度中には一定の成果を得られる見込みである。
なお、これらの成果は想定よりも半年から1年早い進捗である。優秀な学生が研究補助者として参画してくれたおかげである。
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今後の研究の推進方策 |
上記で言及した、集団的自衛権をはじめとする安全保障政策の転換が、日米軍事協力の充実化を通して与える戦略上の効果や、安全保障の効果は、以下の日本としてまとめられている [12] Shuhei Kurizaki, ``Alliance Cohesiveness, Intervention Commitment, and Extended Deterrence,'' [13] Andrew Capistrano and Shuhei Kurizaki, ``Japan's Changing Defense Posture and Its Implications for Security Relations in East Asia'',
これら論文で展開するゲームモデルの分析を完了させることと、また上記で言及した実証分析の結果の頑健性を検証することを第一の目標とする。これらが終わり次第、全ての分析結果をまとめる単行本の執筆を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
そもそもこの欄の質問の日本語を理解できない。英語に関しては壊滅的である。次年度使用額とあるがまず「本年度」を定義して欲しいものである。意味を理解できない理由の一つは、そもそもこの質問の趣旨が理解できない点にある。つまり、コミュニケーションとは相手の意図を推察しつつ、そこに日常社会で許容されている論理を適宜適用しつつ、相互の理解を重ねていく作業であるのだから。
そのような状況で、推察の上に推察を重ねるならば「物事は予定通りには動くことはなく、ましてや研究とは想定外の躓きとその結果の発見があって初めて意味のある成果が出るものである。同様にこの研究課題においても、永田町の動きに併せて人員を総動員してある意味で3年分の研究を一気に進めた。そのため、資金をいろいろ動かしていたために、当初の計画から大き外れたのである。」研究推進課の皆さんが修正を求めて来るまでは、まずはこれを「理由」とする。悪しからず。
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次年度使用額の使用計画 |
「使用計画」とあるのだから、現在未使用の金額について、今後どのように使う計画を持っているのか、という問いであろう。
だとするならば、18万円強の金額は、データ視覚化とパネルデータの計量経済学的分析に長けた院生(あるいは学部生)を研究補助者として雇用し、これまでに行った分析の頑強性チェック、そしてそれら結果のより直観的なプレゼンテーションのための作図を行ってもらう。なお、これら実証分析の結果は、他のゲーム理論を用いたモデル分析の結果と併せて単行本としてまとめる予定である。
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