研究課題/領域番号 |
15K03335
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
李 鍾元 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (20210809)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 東アジア共同体 / 地域主義 / 日中韓協力 / 朴槿恵外交 / 金大中外交 / ミドルパワー |
研究実績の概要 |
第2次年度には、当初の計画では米国での資料調査を予定していたが、韓国での調査を複数回行うことに変更し、その結果を研究論文として発表した。その理由は、韓国の政治状況の変化で、朴槿恵政権が早期に退陣する見込みとなり、朴槿恵政権の関係者への面談や資料調査を急ぐ必要があると判断したからである。第1次年度に引き続き、韓国政府関係者への面談調査とともに、韓国における研究文献の調査を進め、研究者との意見交換を行った。また、金大中大統領図書館に所蔵されている文書を中心に、金大中政権期の東アジア外交に関する資料調査を行い、当時の政権関係者への面談調査を行った。 こうした調査結果を整理し、朴槿恵政権の北東アジア平和協力構想の経緯や展開過程を実証的に分析した研究論文「韓国朴槿恵政権の北東アジア平和協力構想(NAPCI)―韓国のミドルパワー論と地域主義外交の文脈を中心に」(『アジア太平洋討究』第28号、2017年3月)を発表した。そこでは、近年の韓国におけるミドルパワー外交の議論と実際を整理し、その文脈において、朴槿恵政権の北東アジア平和協力構想を体系的に分析した。朴槿恵政権の東アジア外交の中心政策の一つである同構想について、その成立と展開の過程を体系的に分析したものは皆無に等しく、同論文の学術的な意義は少なくないと自負している。 また、当初の予定通り、日中韓協力については、国際シンポの結果を単行本として岩波書店から刊行した。 韓国の地域主義外交の全体像については、2016年にも広島市立大学広島平和研究所主催のセミナーで発表の機会を与えられ、「東アジア共同体と日中韓関係」と題する報告論文を提出した。そこでは、韓国の東アジア地域主義外交の全体像を示し、日韓の外交的協力により、日中韓の三国協力メカニズムを立ち上げた過程を強調した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで、韓国現地での資料調査や関係者面談という形で、おおむね当初の計画に沿って研究を進めている。歴史研究と政策研究の結合を志向する趣旨から、大統領図書館や公文書館などでの外交資料の調査と並行して、現在進行中の政策を含め、政策担当者への面談調査にも注力してきたのが本研究の特色でもある。これまでは、戦後歴代政権のうち、金大中政権と朴槿恵政権の二つの事例に焦点を合わせてきたが、それは政治的に進歩や保守と分類されるケースの比較という意味に加え、先行研究が少ないという点を考慮したものであった。 当初の計画では、米国の東アジア政策との関連にも注目し、米国側の資料調査を予定したが、韓国現地での資料調査や面談の可能性が広がるにつれ、米国での調査の比重が低下した面がある。韓国現地調査に際しては、会議や出張など他の機会が多くあり、それを活用して補足的な調査を行うことができ、研究費を文献購入などに充当することができた。 また、韓国の地域主義外交について、理論的には「ミドルパワー」外交という視点から分析される場合が多いが、韓国における学術的かつ政策論的な研究を網羅的に検討、整理し、その結果を論文「韓国朴槿恵政権の北東アジア平和協力構想(NAPCI)」として発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年間の調査を踏まえ、最終年度の2017年度には、他の政権期、とりわけ地域主義外交を活発に構想した盧泰愚および盧武鉉政権期に焦点を合わせて研究を進める。これによって、戦後韓国の歴代政権の地域主義外交の全体像を実証的に描くことができると考えている。盧泰愚政権の「北方政策」や盧武鉉政権の「北東アジアバランサー論」は、当時から政策論的には活発に議論、分析されたが、歴史学的な実証研究はほとんどない。まだ一次史料としての外交文書は公開されていないが、当時の関係者への面談調査は可能であり、シンクタンク報告書などの二次史料と合わせて、実証的な解明を進める。 研究対象の事例に関連して、アジア信頼醸成措置会議(CICA)に韓国がメンバーとして加盟した経緯を解明するための調査を追加する。当初の予定にはなかったが、中国主導のアジア枠組みづくりの試みに対する韓国の政策の事例として意味があり、先行研究が皆無である点で、調査の必要を感じた。 韓国および米国での資料調査と面談を行い、日本の外交資料や関係者面談も実施する予定である。 こうした調査を土台に、2017年には、まず金大中政権期の東アジア共同体外交に関する研究論文を執筆し、紀要などに発表する。また、韓国の新政権の東アジア政策に関する分析を加え、本研究の結果を体系的に整理する分析の枠組みを構築する。 以上の結果をまとめ、単行本としての執筆を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
韓国への出張を2回、米国への出張を1回ほど計画していたが、韓国の政治状況の変動に鑑み、韓国での現地調査を優先したため、米国への出張は実施されなかった。また、韓国出張に際しても、研究機関への招待など他の機会が多数あり、それを活用したため、旅費の支出を節約し、韓国での文献購入などに充当することができた。近年韓国で地域主義に関する研究が活発に行われ、大量の文献を購入する必要が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
最終年度の2017年には韓国への調査出張を3回ほど行い、米国での資料収集を計画している。最終年度に当たり、関係者への面談などを集中的に行う必要があるためである。
|