研究課題/領域番号 |
15K03337
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
上原 良子 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (90310549)
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研究分担者 |
日臺 健雄 埼玉学園大学, 経済経営学部, 准教授 (00633512)
白鳥 潤一郎 北海道大学, 法学研究科, センター研究員 (20735740)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 資源 / 境界領域 / ボーダー研究 / ユーラシア / EU / 極東 / 島嶼 / 開発 |
研究実績の概要 |
2016年度は、科研費により7回の研究会および打合会、根室・釜山・サハリン・フランスの現地調査を実施することができた。 ①資源外交と新しい国際関係-本年度の第一の課題である資源外交の展開と新しい国際関係の解明については、白鳥潤一郎が学会報告を行い(日本国際政治学会)、資源外交の転換点である初期サミットの分析を通じて、多元的な時代の多元的な外交会議の様態を明らかにした。また上原は研究会において、独仏間における資源をめぐる対立とヨーロッパ統合の成立過程および、ヨーロッパの境界領域における多様な統治形態(特に自治体レベルでの協力関係)について研究した。②ロシアと近隣諸国との関係-日ロ間の外交交渉が大きく進展したことから、日臺健雄が日ロ間の極東経済協力と、ロシア-朝鮮民主主義人民共和国との経済関係という新しいテーマを深めた。 また、外部の研究者の参加を得て、境界領域をめぐる新しい研究ネットワークの構築と、実証研究と理論研究の交錯による新しい論点の解明に着手できた。①島嶼地域における境界領域-天野尚樹「サハリンの資源と開発」、花松泰倫「対馬・釜山のボーダーツーリズム」、伊藤頌文「キプロスの分断と東地中海の境界領域」により、島嶼地域における境界領域の特殊性を多面的に分析することができた。②境界領域における保障占領-欧州とサハリンの境界領域の歴史研究の比較から、境界領域の統治のモデルとしての保障占領という新しい論点が明らかにされた(藤山一樹「第一次世界大戦後の連合国ラインラント占領」)。③ボーダーをめぐる理論研究との共同研究-ボーダー研究の第一人者、岩下明裕氏の協力を得、理論的サーベイおよび、本課題の実証研究との学際的研究グループを形成することができた。これにより、歴史学や政治学に留まらず、多方面での学際的研究の進展、新しい論点の抽出が期待できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2016年度の研究計画では、資源外交と地域紛争分析を通じて、境界領域の国際関係の特質を解明することを予定していた。これに従い、地域統合(EU)形成における資源問題の影響、また欧ロ、および日ロ間の境界領域の実証研究とその比較を試みた。 これに加えて、今年度は新たな研究ネットワークの構築と新しい論点の抽出に成功したことにより、計画以上に研究を進展させることができた。①多地域での境界領域の実証研究を拡大し、より広域かつ多面的な実証研究とその比較が可能となった(サハリン研究の天野尚樹氏、および対馬研究の花松泰倫氏、キプロス研究の伊藤頌文氏、ヨーロッパ外交の藤山一樹氏、ジブラルタル研究の西脇靖洋氏)。②本科研による実証研究と理論研究との交流により、学際的な展開を図った。ボーダー研究の第一人者である北海道大学スラブ・ユーラシア研究所境界領域ユニットの岩下明裕氏による知見の提供を受け、共同研究に着手することができた。③国民国家中心であった歴史学・地域研究等を、ボーダー・境界領域の理論研究を基礎として再構築し、新しい枠組みから考察することができた。具体的には、島嶼部における境界領域の比較研究、ドイツ保障占領をモデルとする隣国による越境的支配、国境を越える新しい自治体協力と開発による境界領域の変容等、歴史から現代におよぶ境界領域の多様な形態・ガバナンスを分析した。これらの事例研究を通じて、今後の新しいボーダーおよび境界領域の多様な形態・ガヴァナンスの重要性を明らかにし、平和的な境界領域の意義と多様な可能性について解明することができた。 また、ロシアの極東開発についても、予想を超えた進展を見せ、プーチン・安部会談により極東経済開発が合意に至り、日ロ極東関係に新しい可能性が誕生した。メディア等では、領土問題等批判的な分析が多かったが、日臺健雄は経済開発における重要性を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は最終年度であるため、第一に本課題の成果の公表に重点を置き、一般市民も対象としたシンポジウムの開催、学会報告、論文発表を予定している。まず、ボーダーの理論研究との学際的分析については、6月24日(土)に北海道大学スラブ・ユーラシア研究所において、同研究所境界領域ユニットおよびNIHU東北アジア地域研究(北海道大学スラブ・ユーラシア研究所)との共催により、シンポジウム「内なる境界/外なる境界」を開催予定である。また7月9日(日)の国際文化学会2017年度大会においても、境界領域をテーマとして学会発表を予定している。これらの成果については、学会誌等での発表を予定している。 第二に、成果発表と並行して、2016年度に確立した新しい研究ネットワークを通じて、理論と実証の交流および新しい論点を解明する中期計画に着手する。具体的には地中海における境界領域の異なる軸(海・島嶼、東地中海・西地中海)での比較、島嶼部のボーダーの比較、交通ネットワークと境界領域の変容等の論点の分析に着手する予定である。 また資源外交研究については、1960年代~1970年代における資源をめぐる国際レジームの共同研究、および白鳥潤一郎のテキスト『資源外交』、上原良子の『1940年代後半のフランスと欧州統合』等で、国際関係史における資源外交の意味を解明し、発表する予定である。 国民への知的還元としては、メディア、市民講座等を通じて成果発信を行う予定である。 3人からスタートしたものの、多地域・多分野の学際的研究会となった。何より若手研究者の参加を得たことは大きな成果であった。3名の科研であるため資金的な制約はあるが、学際的手法による共同研究により、若手に学問的刺激と支援を与え、新しい学問を探求することを目的の一つとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ロシア担当の日臺健雄氏が、ロシアでの現地調査にかえて、日ロ間の極東開発およびロシア-北朝鮮間の貿易の分析を重点的に進めたため。
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次年度使用額の使用計画 |
6月6日に予定している北海道大学スラブユーラシア研究所でのシンポジウム、7月の国際文化学会での研究発表および研究ネットワークの拡大に伴う研究会での旅費に支出する。
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