研究課題/領域番号 |
15K03348
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
宇井 貴志 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (60312815)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経済理論 / ゲーム理論 / ベイジアンゲーム / 情報構造 / 情報設計 |
研究実績の概要 |
戦略的環境下にある複数の意志決定者に対して、どのような情報伝達が社会的厚生を増すのかを明らかにするため、対称なlinear quadratic Gaussianゲーム(LQGゲーム)において、情報の精度が経済厚生に与える効果を分析した。 厚生関数として、プレイヤーの行動の任意の二次関数の事前期待値を考える。厚生関数を分析するため、プレイヤーの均衡行動を、すべてのプレイヤーに共通な確率変数からなる項と、そのプレイヤー固有の確率変数からなる項に分解し、前者の分散をプレイヤー行動の共通分散、後者の分散をプレイヤー行動の個別分散と呼ぶ。厚生関数は、共通分散と個別分散の線形和で表すことができる。さらに、共通分散は情報の精度について増加関数であるが、個別分散は情報の精度について減少関数になる。したがって、情報の価値は厚生関数における個別分散と共通分散の相対的な大きさで決まる。 厚生関数のこの性質を用いて、情報構造が外生的な場合について、私的情報と公的情報が正の価値をもつための必要十分条件を求めた。この結果を用いて、社会的厚生を最大にする最適情報構造と最適相関均衡を導き出した。 次に、情報構造が内生的な場合を考えた。具体的には、プレイヤーが費用を払って私的情報の精度を決定するゲームにおいて、公的情報が正の価値をもつための必要十分条件を求めた。この結果を用いて、社会的厚生を最大にする最適な公的情報を求めた。さらに、情報構造が外生的な場合と内生的な場合とで、情報の価値がどう異なるかを分析し、両者の違いは限界費用の弾力性の大小関係として説明できることを示した。 また、非対称なLQGゲームを分析するための基礎研究として、ベイジアンゲームにおけるベイジアン・ナッシュ均衡の存在と一意性のための十分条件に関する研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
情報が外生的なLQGゲームと、情報取得が内生的なLQGゲームについて、社会的厚生を最大にする情報構造を明らかにした。この意味において、戦略的環境下にある複数の意志決定者に対して、どのような情報伝達が社会的厚生を増すのかを明らかにするという研究目的の達成に向け、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた結果を前提として、関連する問題やより一般的な状況の分析に関する研究を推進する。 例えば、情報取得費用が社会厚生に与える影響について分析する。情報取得が内生的なLQGゲームにおいて情報取得費用が増加すると、プレイヤーが取得する私的情報の精度は減る。情報が負の価値をもつ場合には、費用の増加によって社会的厚生が増す可能性がある。こうしたことがあり得るか、あるとすればどのような場合か、その場合、社会的に最適な情報取得費用はどのようなものかを明らかにする。 また、情報伝達者がプレイヤーの利得に対して直接影響を与えられる場合についての研究を行う。中央銀行が金融政策と情報伝達の二つの政策手段を持つとき、社会的厚生を最大にする政策の組み合わせを求める問題などに応用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
シミュレーション研究を次年度に繰り越したことに伴い、それに用いるコンピューター購入を次年度に繰り越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
コンピューター購入の予定。
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