研究実績の概要 |
企業組織におけるインセンティブ体系が有効に機能するためには,労働者の能力や遂行するプロジェクトの生産性に関する評価が不可欠である.こうした要素に対する不正確な評価は,事後的に資源の配分に歪みをもたらすだけでなく,事前の労働者のモチベーションにも負の影響を与える.本研究では,この中でも動学的環境に固有の問題である,最適な評価タイミングの問題に着目し,現実に用いられている人事評価制度の理論的な側面からの評価を行う.
今年度は,多腕バンディット問題の枠組みにおける最適な評価タイミングに関して二つの研究を行った.最初の研究では,自身の能力に対して私的情報を持つ労働者とその能力に関する評価を行う評価者による最適停止問題を考察した.特に,評価タイミングに事前にコミットする場合とコミットしない場合の双方を考察し,その均衡での配分の比較を行い,このような環境における評価タイミングへのコミットメントの役割について議論している.この成果はディスカッションペーパー(Chen and Ishida, 2015, "A Tenure-Clock Problem")として公表した後,継続的な改訂を経て現在は学術誌に投稿中である.
二つ目の研究として,複数の異質なエージェントによる多腕バンディット問題の分析も行った.ここでは上述のケースとは反対に評価者がプロジェクトの質に関して私的情報を持つ状況を考察している.こうした状況においては,プロジェクトの継続が評価者の持つ情報のシグナルとなるため,均衡における動学に複雑な影響をもたらす.本研究では,均衡の特徴づけを行い,評価者のプロジェクト停止のタイミングと労働者の努力配分の関係について明らかにした.この成果もディスカッションペーパー(Chen and Ishida, 2015, "Hierarchical Experimentation")として公表した.
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