今年度は昨年度から引き続き,エージェントが成功リスクの程度を選択できる動学シグナリングモデルにおいて,イノベーションの価値を最大にする補助金スキームに関する理論的な考察を行った.この分析では,イノベーションの価値を最大にするためには,比較的価値の低い漸進的なイノベーションに補助金を与えることが多くの場合で最適であるというや逆説的な結果を示した.ここで得られた結果は,創出したイノベーションの価値とそれに対応した報酬の間で現実によく観察される"reward compression"に対応していると考えられ,一見すると非効率なreward compressionが実際は経済厚生を大きく改善する可能性があることを示唆している.今後は論文をさらに改訂したうえで,学会・研究会等での報告を経た後に国際学術誌に投稿する予定である.
この他にも以前にディスカッションペーパーとして公表した"Dynamic Performance Evaluation with Deadlines: The Role of Commitment"(旧タイトル"A Tenure-Clock Problem"の改訂版)および"Hierarchical Experimentation"の2本の論文について改訂を継続して行った.前者については産業経済学の分野で定評のあるJournal of Industrial Economicsに掲載されることが決定している.また,後者についてはJournal of Economic Theoryからの改定要求に従い改訂作業を進めているところである.改訂作業については現時点でほとんど終了しており近日中に再投稿する予定である.
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