平成29年度は、中国において手持ち現金が経済人の合理性に与える効果があるか否かを明らかにするため、最後通牒ゲーム実験を行った。具体的には紙上のポイントを用いて最後通牒ゲームを行い最後に1 ポイント1 円換算で謝金を支払う場合(ポイント条件)と、封筒と現金を用いて最後通牒ゲームを行う場合(現金条件)の実験参加者の行動を比較した。その結果、現金条件の提案者はポイント条件の提案者よりも低い額を提案することと、現金条件の応答者はポイント条件の応答者に比べて同じ提案額を拒否する確率が有意に低いことが分かった。日本でも行った同じ実験の結果と比べて、ポイント条件において中国被験者の平均提案割合と日本被験者の平均提案割合との間に有意な差がなかったが、現金条件において中国の提案者は日本の提案者よりも低い割合を提案した。また、ポイント条件において中国応答者の拒否率は日本応答者の拒否率よりも有意に高かったが、現金条件において中国応答者の拒否率は日本応答者の拒否率よりも有意に低かった。これらの結果から、中国被験者は現金を目の前にさせると、日本被験者よりももっと利己的になり経済学で定義される「合理的な個人の行動」に近い行為を行うことが分かった。 また、平成27年度に行った投資実験の結果は、初期保有が渡される形式(紙幣・コイン・非現金)によって被験者の投資行動が異なるものであった。まず、非現金の形式より、紙幣およびコインの形式では被験者の投資実験に参加する確率が統計的に有意に低かった。次に、投資実験に参加する被験者の投資額は、非現金の形式より、紙幣およびコインの形式のほうが有意に少なかった。これらの結果は現金を目の前に行う意志決定はそうでない場合よりも慎重になることを示唆している。
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