本研究は、チームにおいて、自分たちのチームはどれだけ努力のしがいがあるかについてメンバーが抱く判断が、リーダーシップ成立の原動力となる可能性を解明しようとするものである。つまり、チームの生産性が高いと判断している個人は、その判断を、リーダーシップ行動を通じて、生産性に関して悲観的判断を持っているかもしれない他のメンバーに伝え、彼らも努力する気にさせたいという動機がある。この動機が実際にリーダーシップの原動力として機能するか否かは、チーム生産性の判断の個人間での相関の度合いに左右されるという仮説を検証する。 まず、チーム生産性に関してメンバーそれぞれが判断を抱く下で行うチーム生産を、ゲーム理論のモデルによって定式化し、そのチームで起こることを、動学ゲームの逐次均衡理論によって理論的に明らかにした。すなわち、人が、チームの仕事を通じて自分が受け取る便益を評価する上でリスクに関して中立的ならば、個人判断の相関度合いについて閾値があって、その閾値よりも相関度が低い場合にはリーダーシップが均衡となるが、その閾値よりも相関度が高い場合にはそうならないことを、数学的に証明した。これは、リーダーシップはメンバーが抱く判断のすれ違いを乗り越えるメカニズムである、ということを理論的に明らかにした成果と言える。 次に、数学的に証明した閾値よりも相関度が低い場合と、高い場合とをコンピュータ上で人工的に生成し、それぞれの場合で大学生に仮想的チーム生産を行ってもらう実験室実験を実施した。その結果、閾値よりも相関度が低い場合には理論分析の通りリーダーシップの生起が観察されたが、閾値よりも相関度が高い場合にも理論分析に反してリーダーシップの生起が観察された。後者の観察結果は、被験者である大学生に関して上述のリスク中立想定が妥当せず、その場合に別のメカニズムでリーダーシップが起こる可能性を示唆している。
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