研究課題/領域番号 |
15K03355
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今井 亮一 九州大学, 留学生センター, 准教授 (10298507)
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研究分担者 |
工藤 教孝 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (80334598)
宮本 弘暁 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 特任准教授 (10348831) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | サーチ理論 / 労働市場 / 医療 / 産業組織 |
研究実績の概要 |
当研究プロジェクトの主たる目的はサーチ理論に関する国内的・国際的研究会の開催および研究代表者の個人研究である。順番に説明する。研究会開催状況は、STW公式ホームページを参照されたし。http://japanese-economy.la.coocan.jp/STW.htm
1.国内研究会の開催:2016年度は、研究代表者の業務上・健康上の理由もあり、国内研究会は、神戸大学との共催で2017年1月に開催した1回だけである。 2.国際研究会の開催:2016年度は、当初、海外の一流研究者を招聘し、サーチ理論の国際研究会を開催する予定だったが、諸事情により交渉は難航し、2017年度に延期となった。諸事情の一つは、海外一流研究者の多忙、および昨今の経済学研究者の給与高騰による要求報酬の急騰である。 3.研究代表者個人の研究:2016年度に形を得たものは、「保険と医療需要」(九州大学留学生センター紀要2017年3月刊)である。本研究は、医療経済学のサーチ理論均衡モデル構築のための準備論考である。産業としての医療の特殊性は、サービス価格の大半が保険によって支払われることになる。保険支払いは事実上、医療サービス供給者への補助金となるので、価格メカニズムが機能しづらくなる。例えば、価格を供給者が自由に決められるアメリカのような医療制度では、価格引き上げによるコスト増は際限なく保険システムに転嫁されることになりがちである。これは他の産業への需要を抑圧し、成長を抑制する効果があると同時に、規模経済の大きい医療産業のイノベーションを促す可能性もある。これに対して、日欧のように公的保険が整備されて価格が統制されている場合は、保険システムの負担は小さく他産業の抑圧も起こらないが、イノベーションは起こりにくい。ここでサーチ理論の導入すれば、医者と患者のマッチングおよび価格設定を精緻に分析できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論研究は、進行につれて新たな困難や課題が発生するので、当初の計画のようにうまく行かないこともあるが、逆に予想外の方向を発見することもある。医療経済のサーチ理論分析は分野として比較的新しいが、すでに労働市場との関連についてはかなりの先行研究がある。というのはアメリカでは医療保険が雇用主によって提供されるのが普通だからである。したがって、労働市場へのサーチ理論の導入を進めてもそれほど斬新な研究にはならない。 これに対して、むしろ医療供給者と患者のマッチング、およびサービス価格の決定における供給者と政府の交渉過程をモデル化することに焦点を絞れば、独創性を高めることができる。また制度の違いによる医療技術イノベーションの違いはこれまで分析されていない。これらを考慮に入れ、現在、方向を転換しつつあるところである。
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今後の研究の推進方策 |
現在、代表者が行う個人研究の話題は3点ある。 1.サーチ理論による住宅市場の分析。これは平成27年度に行った。購買市場の基本モデルはできているが、賃貸市場との融合が難しい。消費者が購買と賃貸の間を行き来するプロセスのモデルが複雑になり、計算が困難になる。 2.サーチ理論による医療経済の分析。これは平成28年度に行った。この分析では取引は摩擦のない市場で行われると仮定したが、通常、医者と患者のマッチングは逐次的に行われ、双方独占的な環境である。価格交渉にナッシュ交渉解を用いると、交渉力を表すパラメーターの設定が恣意的になる。これを避けるためにはdirected searchを利用することができるが、価格のメニューを見て消費者が医者を選択するのは現実的でない。まずランダムに医者と出会い、その後、メニューを見て医療内容を選択するのが現実的だろう。 3.マッチング理論による差別価格の分析。これは最近スタートした研究である。企業は価格と品質をセットにして消費者に提供する。財が1種類しかなければ高評価の消費者が得る効用は大きい。割安価格で買えるからである。これに対して財が二種類あれば、質が上がっても価格が上がるから悩ましい選択になる。この環境でdirected searchを導入するのは新しい研究方向になる。企業は、価格と品質をセットにして消費者を誘導することができるという設定により、モデルの汎用性は高まる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は、以下の諸事情で次年度使用額が発生した。(1)研究代表者の校務多忙および健康状況により、十分な回数の国内研究会が開催できなかった。(2)国際研究会の開催を予定したが、当初の招聘予定者の多忙、および最近の経済学者の所得環境が上がり旅費として要求される金額が上がったため、交渉延期が必要となった。(3)研究分担者の一人が海外に転出し、分担金の支出執行ができなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、以下の理由により十分な執行ができる見込みである。(1)研究代表者の健康状況が回復し、旺盛な国内研究会が開催できる見込みである。(2)海外招聘教授人選の現実的な見通しが立ったので、今年は国際コンファレンスを開催できそうである。
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