学校選択制のマッチングにおいて、受入保留方式(ゲール=シャプレー方式)は真の選好を表明することが支配戦略となっているが、これまでの実験室実験によれば、真実表明から逸脱する被験者も少なくない。こうした逸脱には何らかの合理性があるのか否か、またその結果としてマッチングの安定性が失われてしまうのかどうかを検討することが当初の計画であった。 この研究では問題を、マジョリティとマイノリティという属性が違う2種類の学生に異なる定員枠や優先順位を付けて学校に配属させるという、より一般的な設定の下で研究を行った。その結果、実験室実験では、真実表明から逸脱する被験者の多くが、スキップダウン戦略と名付けた行動を選択することが明らかになった。この戦略では、学生は自分の選好に関わらず、自分を高く評価してくれている学校に高い希望順位を付けることになる。 こうした逸脱にもかかわらず、スキップダウン戦略はナッシュ均衡になり、かつ得られるマッチングが安定マッチングになる条件を理論的に導き出すことができた。一方で、一般的に戦略的操作に対して脆弱であると考えられているボストン方式については、スキップダウン戦略はナッシュ均衡にならないことが明らかになった。 この研究成果はゲーム理論ではトップレベルの専門誌に投稿され、好意的な評価を得て、現在、論文の改訂を要求されているところである。 この課題を遂行することを通じて、支配戦略を選択する合理的な主体とスキップダウン戦略を選択する限定合理的な主体が混在する環境でも、受入保留方式は安定マッチングを導くことができる頑健な制度メカニズムであることが明らかになったが、このように多様で異質なエージェントが混在する環境において頑健なメカニズムは他の研究領域にも存在しうることがその後の文献調査で明らかになった。そこで、今後より一般的な法則性を追求する必要性があると思われる。
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