第1に、行動選択基準の情報的基礎に関わる哲学的問題は、厚生情報と非厚生情報を行動選択基準との関連でどのように扱うことができるか、またそれらの社会的意味と価値についての検討である。厚生情報を超えた情報的基礎の下で行動選択基準を包括的に比較検討するために、情報的基礎のメタレベルでの吟味が必要であることが判明した。もちろん、メタレベルで情報的基礎を考えるだけでは、高次の比較可能性を導入することが要請されるに過ぎず、問題解決にはならない。 第2に、社会的選択理論の枠組みで厚生属性と非厚生属性に二つによって特徴づけられる社会状態(選択肢)を対象とした社会的選択を考察し、弱い合理性の下でアロー流の不可能性定理が復活することを発見した。すなわち、非厚生属性に関する合理性、パレート無差別性、中立性を社会的選択ルールに課したとき、独裁者が存在することを証明した。この定理を行動選択の制約の論脈で再考することで、非厚生情報と合理性の対立状況が記述できるので、非厚生情報に基づく行動の制約を考慮する行動選択を考察することが可能になる。 第3に、情報的基礎が制約されている状況における合理性のあり方を探究するとともに、そのような状況において自由を評価することが合理的であることを示すための作業を行った。知識、計算能力、記憶容量の限界という制約下における人間の合理性のあり方を探究し、それを生態的合理性として特徴づけた。 第4に、人の社会的な地位に対応して様々な義務があり、それに従う行動選択は社会構成員としての不可欠な資質である。カントの定言命法に代表される義務に基づく行動原理は行動の帰結に全く言及せずに行動選択ができるため簡便であるが、他者への影響を全く考慮しないという意味で限定的である。そこで、カントの定言命法を若干緩めた条件の下で再定式化し、それによって正しいとされる行動を特徴づけた。
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