研究課題/領域番号 |
15K03369
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
小林 磨美 立命館大学, 経営学部, 教授 (40411566)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 銀行間市場 / 金利政策 / アナウンスメント効果 / 自己資本比率規制 / 金融ショック |
研究実績の概要 |
本年度は銀行システムの安定化に資する政策と規制をめぐる問題について、ミクロ経済学的な分析手法を用いて理論分析を行った。その結果は英文論文としてまとめ、国際コンファレンスで発表したのちに若干の修正を加えたうえで、世界的な社会科学系のワーキングペーパーの発表サイトであるSSRN (Social Science Research Network)に発表するとともに、2016年度に開催が予定されている国際学会2件に投稿した。 本研究では、事後的に発生するショックに対して銀行システムを安定化させる銀行間市場の役割に着目し、金融政策や銀行規制の影響を考察する。具体的には、事前に均質な銀行からなる銀行セクターに対して外生的な金融ショックが発生することで、事後的にある一定割合の銀行の資産が毀損して支払不能になるリスクがある状況を考察する。手元流動性の事前確保には支払不能に備えるメリットがある一方で、支払不能を免れれば費用負担が発生するといった二律背反が存在する。この場合、ショック発生時に銀行間市場を通じて流動性の貸借ができることが社会的に望ましくなる。 多くの中央銀行は金融政策として銀行間金利に対して誘導目標を設定する。近年の多くの実証研究によれば、発表された目標値を所与として銀行が意思決定するアナウンスメント効果の存在が明らかになっている。当該効果を考慮にいれると、中央銀行はショック発生時に銀行間市場での貸借が行われるような政策金利水準の設定をすることが望ましく、その水準をどのように決めるかが問題の焦点となる。 主要な結果として、政策金利水準はショックによる資産毀損の確率と毀損による資産減額の程度を考慮に入れて決定することが望ましいことを導出した。また預金による安定的な資金調達を銀行システムの安定化条件とすると、そのためには政策金利を所与とした銀行の自己資本比率規制が必要になることを導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
事前に予定していたのとほぼ同等のペースで論文を仕上げている。ただし、今後発表や投稿を通じて現実の金融政策の変遷と分析結果との整合性や解釈などについてより深めなければならない問題がありうる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は米国ニューヨーク大学スターン・スクール(経営大学院)で在外研究を行う。2007年に金融危機が発生して以降、本大学院は世界に先駆けてその発生メカニズムを理論および実証の両面から解明し、米国における金融規制改革や金融政策の在り方に対して提言をつづけている。在外研究期間中は大学院で開催される各種セミナーに参加し、金融システム研究の最先端の研究に対する知見を深めるとともに、次にあげる本年度の研究課題を論文にすることを目標とする。 本年度はグローバルな金融規制に対して各国の金融政策の独立性がどの程度確保されるのか、また独立性を確保するために必要な条件としてどのようなものがあるかについてミクロ経済学的な理論分析に耐えうるモデルを構築し、分析を行う。具体的には、複数の異なる金融機関がバランスシートの資産側で証券市場と、負債側で短期金融市場とそれぞれつながっているグローバルな金融システムをモデル化する。とくに金融機関の証券化業務をめぐるモラル・ハザードの問題を考慮にいれ、金融機関のガバナンスの程度が望ましい金融政策に与える影響について理論的な考察を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、計画していた学会および金融庁での勉強会への参加を学務のためとりやめたことにより次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
在外研究中に必要となる物品費その他への支出に使用を予定している。
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