研究課題/領域番号 |
15K03383
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山崎 聡 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (80323905)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 厚生経済学 / 優生学 / ケンブリッジ学派 / 功利主義 |
研究実績の概要 |
本年は、拙稿(「創設期の厚生経済学の一側面―ピグーと優生思想―」『経済研究』第65巻第2号、2014年)を発展・拡張する研究を行った。拙稿においては、ピグーと優生学の問題を、創設期の厚生経済学の一側面というコンテキストで検討した。特に、時代の優生学的懸念の中心であった、人口構成比の悪化(逆選択ないし「ダーウィンの危惧 」)に対するピグーの見解を詳細に吟味し、結果、彼は当時の優生思想の陣営には与さなかったと結論付けた。これは、ケンブリッジという比較的狭い世界に限定しても、師マーシャルおよび弟弟子ケインズとは異なるピグーの一側面であることを示す。だが、この結論は、あくまでも当時のコンテキストにおいてであって、現代の見地からすれば、断種・隔離を認めたピグーは紛うことなく優生主義者の刻印を押されることになろう。そこで、本年においては、研究主眼を、そうしたレッテルが妥当か否かにではなく、ピグーが断種・隔離を認めた経緯およびその倫理的議論をフォローすることで、同問題に関して彼が援用した規範哲学が現代において如何ほどの含意を持つかを追求することに置いた 。 具体的な成果は、以下のとおり。まず、ピグーの初期の慈善、救貧に関する議論をフォローしつつ、彼が時の優生問題をどのように意識していったかを検討した。そして、1901年では判断保留であったが、1907~09年辺りに優生問題に関する一つの判断(断種・隔離)に至ったことを示した。次いで、彼の道徳哲学が優生学に対して持つ多面的な含意を押さえつつ、断種・隔離を唱えた根拠を検討した。 上記の成果は、著書(分担執筆)として、次年度以降に出版される見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、資料収集のために、海外出張を予定していたが、論文執筆依頼が入ったため、出張は延期し、論文執筆に専心した。とはいえ、この執筆内容はまさに本研究事業の目的に完全に合致するものであり、実績の生産という面では、進捗が滞ったことには全くならない。研究計画の順番が若干前後しただけであることから、「おおむね順調に進展している」と評価して差し支えない。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定としては、まず、2016年7月に開かれる国際功利主義学会ISUS2016で研究報告を行う。そこでのプレゼンやディスカッションを通じて、今後の研究をいっそう進めるための知見、情報、モチベーションを得る予定である。さらに、前年度遂行できなかった海外(イギリス)での資料収集も行う。年度の後半において、成果をまとめた論文を執筆してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の年次計画では、資料収集で海外出張を行う予定であり、その予算を確保しておいたが、論文執筆依頼が前倒しで来たため、それを優先した。そのために、海外出張は先送りすることになったので。
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次年度使用額の使用計画 |
先送りになった海外出張(資料収集)は、次年度に行う。
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