研究課題/領域番号 |
15K03383
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山崎 聡 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (80323905)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ピグー / 厚生経済学 / 優生学 / ケンブリッジ学派 / 功利主義 |
研究実績の概要 |
本年度は,主に,旧優生学を媒介としながら,遺伝的障害と功利主義の問題を考察した.子孫に障害を遺伝させるべきではないという主張は古くから根強いもので,周知のとおり,それはおよそ100年前に,(消極的)優生主義の思想となって,一時,世界的な潮流となった.遺伝的に不適な者を排除するべく,断種や隔離政策が実際に行われた例もあったが,現代の価値観においては,個人の自由や権利を蹂躙した政策であると断罪され,旧優生学自体には既に死亡宣告がなされている.では,その思想全てが亡き者になったかといえば,必ずしもそうではない.近年,遺伝子工学の発展と呼応するかのごとく,新しいタイプの優生思想(リベラル優生主義)も誕生している.これは,旧タイプの反省を踏まえ,個人の自由と権利とに配慮しつつも,人類叡智の産物たる遺伝情報を有効活用することで,人々の人生をより豊かに,より向上させようとすることを基調とする.とはいえ,依然,こうした問題には,道徳,価値判断が不可欠であり,生命倫理は,新しい知見や技術が出現するたびに,新たな問題に直面せざるを得ない.そこで,生命倫理のみならず,倫理学説一般における一つの学説である功利主義を取り上げ,遺伝と障害の問題を検討した.研究手法としては,歴史的アプローチを取り,実際に旧優生学の関心の対象となった遺伝病理を功利主義思想がどのように捉えてきたか,その論理はどのようなものであったか,何が問題であり,現在に対する教訓とは何であるかを念頭に置きつつ研究を展開した. 上述の研究成果は,学術論文,国際学会での報告およびプロシーディングスという形で公開された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
夏季の国際功利主義学会(ISUS2016)に出席し,研究報告を行った.また,他にも国際ワークショップで二回報告するなど,研究推進としては質量とも充実していると考えられる.実際に公刊された論文は一本だが,他にも,そうしたワークショップでの報告を基にした論文刊行が準備されつつある.以上より,事業はおおむね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,大きな研究会や業務等がないため,本事業の資料収集にまとまった時間を充てることができる見込みである.具体的には,イギリスを中心とした資料(優生学関連)収集活動を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,イギリスに資料収集に訪れる予定で,そのための経費を準備していたが,国際功利主義学会参加と報告,および別件で海外での研究報告(費用先方負担)を年度途中に依頼されたため,総合的に考慮した結果,そちらを優先し,結果的に当初のイギリス出張は次年度に見送ることとした.
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次年度使用額の使用計画 |
先送りとなった資料収集は次年度中に行い,そのための経費を執行する.
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