研究課題/領域番号 |
15K03386
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森岡 真史 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (50257812)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会主義 / 計画経済 / 最適経済理論 / 数量調整 / 資本主義 / 買手間競争 / 不足 |
研究実績の概要 |
ロシア革命を通じて新たに形成された経済体制について,歴史的過程についての前年度までの研究をふまえつつ最適計画理論および数量調整理論と関わらせながら,主として理論的観点からの考察を行った。最適計画理論との関係では,青木昌彦の初期の著作の検討を通じて,価格情報の機能を制限あるいは排除した数量データにより国民経済規模の計画を編成する試みが,それ自身の内在的困難を通じて,個々の生産単位の限界的な収益性を反映する計算価格の計画機関による逐次的な改定というアイデアを生み出したことを明らかにした。このような計画システムは想定上のものに留まり実際に試みられることはなかったが,生産財の市場での交換を伴わない効率的な資源配分の可能性という問題自体は,ソ連経済における模索や改革を理解するうえでも大きな重要性をもっている。次に,数量調整理論との関係では,社会主義経済を不足の恒常的な存在を伴う買手間競争,すなわち生産物・労働力の獲得をめぐる競争の場としてとらえ,余剰の恒常的な存在を伴う売手間競争の場である資本主義経済と対比し,数量調整が両システムにおいて異なる特質をもつこと,競争が売手間競争の形態をとるためには,買手の需要形成を抑制するしくみ(予算制約・信用制約など)が必要であることを明らかにした。これらに加えて,計画経済の形成の起点となった十月革命初期の時期と,計画経済が市場を意図的に組み込む転機となったネップ期の時期における人民委員会議・最高国民会議等の経済政策決定機関の動向をその内部対立を含めてたどり,前者について,国民経済の包括的組織化に関する当初の構想が,漸進的改革から銀行接収と財産収奪への転換(1917年12月),労働者統制から集権的管理への転換(1918年3月),段階的国有化から全面的国有化への転換(1918年6月)などいくつかの急転換を通じて意図せざる変遷を遂げたことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績に記載した内容のうちで,革命の初期における計画経済の形成に関わる経済政策および経済思想の変遷については,研究そのものは進展したが,論文の公表には至っていない。また本研究計画のテーマである革命的社会主義の「敗北」に関わる,ソビエト・ロシアの新経済政策期の前半における自由市場,私的商業,私的交換,賃貸と雇用の段階的な受容を中心とする経済政策の転換およびそれに伴う経済思想そのものの変化については,資料の分析はある程度行ったものの,研究を十分に進めには至らなかった。遅れの主要な原因は大学の職務および家族の突発的な事情が重なったことにより,これらの事情に鑑み,研究期間の延長を申請し許可を得たところである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究を継続し,革命後まもなく経済の社会主義変革の推進機関として設立された最高経済会議の指導者たちの思考・言動を現実の政策的決定との関連において再構成する論文を執筆する。その際,最高経済会議の内部あるいは同機関と他の政府機関の間で不一致や対立が生じ,複数の政策的選択肢の間での選択をめぐって論争が生じた諸問題に焦点をあてる。また,新経済政策への転換が,経済思想の次元において,革命の指導者たちのそれまでの認識にどのような点で変化をもたらしたのかを,穀物販売の自由や私的商人の活動の段階的な許容をめぐる政策過程をたどりつつ解明をはかる。これらの研究の成果を公表することにより,本課題に関する研究のまとめとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた資料収集のための出張等を実施することができず,研究期間を延長したことにより,次年度使用額が発生した。この額については,前年度に計画していた資料収集および論文の英文校正費用にあてる予定である。
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