研究課題/領域番号 |
15K03387
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研究機関 | 大阪学院大学 |
研究代表者 |
藤本 正富 大阪学院大学, 経済学部, 教授 (30330103)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | J.S.ミル / 相互需要 / 自由貿易 / 関税 / 互恵主義 / ロバート・トレンズ / 植民 / 幼稚産業保護 |
研究実績の概要 |
J.S.ミルの貿易思想の根幹となる経済理論(相互需要説と需給論)とその貿易への応用に関する論文を掲載した英文論集Ricardo and International Tradeが2017年5月の出版にメドが立ったところである。ミルの関税に関する研究は、本年度経済学史学会(6月 徳島文理大学)で報告予定の“J. S. Mill’s Criticism for Robert Torrens’ Reciprocity in International Trade”をもって、論文にまとめられるレベルに到達した。 ここまでの研究によって、相互需要説がミルの自由貿易論の基盤となる経済理論であり、それに基づいて、ミルは、多数国・多数財へと貿易が拡大していくことによって世界的な生産量を増大させ、また貿易当事国の間で経済利益を分割することによって、自由貿易が世界経済の発展へ寄与することを明らかにした。それに対して、ミルの関税の議論は、需給論を分析の基礎に置いており、関税は、それによる価格上昇が需要量を減少させ、世界的な生産量を減少させるように作用させることを明らかにした。ミルは、政府による介入は、関税は世界的生産量を減少させるだけでなく、貿易当事国すべてが同じ行動を取るようになり、関税の効果は相殺される傾向にあることを示唆する。 このように、相互需要説は自由貿易の拡大による世界的生産量の増加を志向しているのに対し、需給論に基づく関税の分析は、世界的生産量の減少を方向付ける。本年度に残された課題である「幼稚産業保護」と「植民」の議論は、自由貿易の例外的なものとして、時間的猶予を伴う形で、世界的生産量を増加させるように機能するとともに、世界的なレベルで、知的・道徳的効果をもたらす意味づけが与えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
J.S.ミルの貿易思想の根幹となる経済理論(相互需要説と需給論)とその貿易への応用に関する論文を掲載した英文論集Shigeyoshi Senga, Masatomi Fujimoto, Taichi Tabuchi (eds.). Ricardo and International Trade (Routledge) の編者の一人としてcorresponding editorを努め、出版社と執筆者との原稿、校正、Indexなどのやり取りに追われていた。結果的に1年遅れの出版となったが、この編集作業に時間を取られたことが大きな原因である。 そのため、ミルの関税に関する研究も進捗が芳しくなかったが、ようやく論文にまとめられるレベルに到達した。 J.S.ミルの植民論、幼稚産業保護論については、ミルの自由貿易思想の中での例外的位置づけが明確になったため、相互需要説と自由貿易との関連で、その位置づけを明確にしていく。
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今後の研究の推進方策 |
残された課題であるJ.S.ミルの幼稚産業保護論と植民論は、相互需要説に基づく自由貿易による世界的生産量の増加と知的・道徳的進歩と密接に関連するため、同じ枠組の中でその内容を検討していく。 ミルの幼稚産業保護論については、『経済学原理』第Ⅴ編第10章「誤った学説を根拠とする政府の干渉」第1節「自国産業保護論」の内容を中心に整理し、ミル貿易思想の中での位置づけを検討する。ミルの幼稚産業保護論は、後発国であるがゆえに生産性は劣っているが、その生産性の向上の可能性がある産業は一定期間を区切って保護し、その成長を促すというものである。それゆえ、自由貿易の例外ではあるが、将来的に世界的生産量の拡大に寄与し、知的・道徳的効果も期待されるものと位置づけられるはずである。 また、ミルの植民地論を、『原理』第Ⅴ編第11章「自由放任主義あるいは不干渉主義の根拠と限界について」第14節「関係者以外の人々のためになされる諸行為の場合。植民」の内容を中心に整理し、ミル貿易思想の中での位置づけを検討する。組織的植民論を展開し、ミルに影響を与えたウェイクフィールドについてはミルの視点から整理することでその影響を整理していく。
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