研究実績の概要 |
最終年度はJ.S.ミルの貿易思想を“J. S. Mill’s Idea of International Trade: The Inheritance from Ricardo’s Free Trade and Torrens’ Reciprocity”にまとめ、編者を務めたS.Senga, M.Fujimoto, T. Tabuchi(eds.). Ricardo and International Trade (Routledge 2017)で出版した。また、ミルの関税論について、学会報告”J. S. Mill’s Analysis for Tariffs and Criticism for Robert Torrens’ Reciprocity.” 経済学史学会第81回大会(徳島文理大学 2017年6月3-4日)を行った。 本研究の目的は、J.S.ミルの貿易思想を、経済理論とその応用という枠組の中で、その本来的な意義をとらえていくことにあり、ミルが世界的生産量の拡大とその分配を分析し、国際貿易を通じた人類の知的・道徳的進歩まで視野に入れた体系をもっていたことを、ミルの貿易思想として描き出すことにあった。これまでの研究によって、この目的は達成されたと思われる。 本研究の特色は、ミルの貿易思想を、自由貿易対保護貿易というこれまでの対立軸の中ではなく、ミル自身が『経済学原理』でイメージしていた、経済理論をベースとした社会哲学として描くことにある。その根底にあるのは、世界的な富の拡大と分配、人類の知的・道徳的進歩への貢献という貿易思想であり、ミルの貿易思想の全体像を提示する研究として意義あるものと考えられる。 植民地論と幼稚産業保護論については、ミルの自由貿易思想の中で例外的な位置づけにあることは示唆されたが、ウェイクフィールドやケアリーの貿易論を精査することが必要がある。
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