本研究では、J.S.ミルの貿易思想を、「経済理論とその社会哲学への応用」という視点から、その全体像を描き出した。 ミルはリカードの比較生産費説から相互需要説へと至る分析において、世界的生産量の拡大とその分配を議論した。それは世界レベルでの経済的な豊かさをもたらすと共に、知的・道徳的進歩へも寄与する。幼稚産業保護と植民もこの系論である。ミルがトレンズに言及する際には、関税の議論が中心であり、そこでは需給論が分析に用いられている。関税は、一国レベルで貿易収支の有利化だけが目的であり、その賦課による価格上昇による需要量の減少から、世界的生産量を減少させるため、ミルにとっては好ましくないものである。
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