研究課題/領域番号 |
15K03392
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 賢悟 東京大学, 経済学研究科(研究院), 准教授 (50549780)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 計量経済学 / 高次元中心極限定理 / モーメント不等式 |
研究実績の概要 |
モーメント不等式モデルとは、関心のあるパラメータがモーメント不等式制約によって定義されるモデルである。不等式制約をみたすパラメータは多くの場合複数あり、その場合、モーメント不等式モデルは部分識別モデルと呼ばれ、近年計量経済学において盛んに研究されている。本研究課題は、モーメント不等式によって部分識別されるパラメータに対して、不等式制約の個数が標本サイズより大きい場合でも理論的に正当となる信頼領域を構成する手法を確立し、提案する手法の最適性を明らかにする。
本年度に達成された成果として、以上の手法の理論的なバックグラウンドになる高次元の中心極限定理、およびブートストラップ近似定理に関する論文をまとめた。具体的には、独立な高次元確率ベクトルの正規化された和の分布に対して、超長方形のクラスに関して一様に正規近似が成り立つための条件を考察し、そういった正規近似は次元が標本数よりもかなり大きくても成り立つことを示した。また、類似の結果を疎な凸集合と呼ばれるクラスに対しても示した。この論文は確率論のトップジャーナルであるAnnals of Probabilityに2016年3月に採録された。以上の確率論的な結果を用いて、大規模モーメント不等式モデルに対して、最大値型の統計量を考察し、その帰無分布を近似する方法を提案した。また、モーメント選択や検定手法のミニマクスな意味での最適性を考察し、以上の結果を論文にまとめ、査読付きの学術誌に投稿し、改訂要求を得た。また、以上の成果はV. Chernozhukov氏 (MIT)とD. Chetverikov氏 (UCLA)との共同研究に基づく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
確率論のトップジャーナルであるAnnals of Probabilityに論文が採録されたことは大きな成果だと考える。また、大規模モーメント不等式モデルの推測に関する結果をまとめた論文も改訂要求を得ているので、研究の進捗状況としては当初の予想以上と言える。
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今後の研究の推進方策 |
大規模モーメント不等式モデルの推測に関する論文を、査読者のコメントに従い改訂し、最終的に採録されることを目指す。また、考えている検定手法の最適性に関して、ミニマクスな意味での最適性では、検定手法の差別化ができない(すなわち、考察している検定手法がすべてミニマクス最適になってしまう)ので、異なる意味での最適性を考察することを考えている。
また、パラメータの関数に対して信頼領域を構成することを考える。パラメータの関数として、例えば、パラメータベクトルの一つの要素を考えてみると、パラメータ全体に対する信頼領域が得られている時、原則として、射影によりその要素に関する信頼領域も得られるが、得られる信頼領域は保守的であり、またパラメータベクトルの次元によっては射影された信頼領域を計算することが難しい場合がある。応用上、パラメータ全体よりも、パラメータの一部分の統計的推測を行いたいケースというのは多々あるので、パラメータの関数に対する信頼領域の構成は別個に考える必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
1月から3月までの間に、共同研究のために海外の大学に短期滞在することを予定していたが、大学の業務もあり、取りやめた。その分の旅費が余った。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は研究発表と共同研究のために、海外の大学に短期滞在する予定が入っているので、今年度の本来の使用額と合わせて、残額分もちょうど使い切る予定である。
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