研究実績の概要 |
大規模モーメント不等式モデルに対する統計的推測手法を整備した論文は、前年度までにReview of Economic Studies誌から改訂要求が来ていたが、レフェリーのコメントに従い、論文の改訂に取り組み、再投稿した。具体的には、いくつか理論的な考察を追加したほか、シミュレーション実験において、既存の手法との比較を行った。いままで提案されているモーメント不等式モデルに対する統計推測手法は、モーメント不等式の個数を固定してサンプルサイズを無限大に発散するという漸近理論のもとでの正当性は示されているが、モーメント不等式の個数が非常に大きい場合での理論的な正当性は不明であった。今回、シミュレーション実験において、そのような既存の手法をモーメント不等式の個数が非常に大きい場合に無理やり適用した場合、サイズのゆがみが生じること、一方で我々の手法はそのような場合でも正しいサイズをもつことが確認された。また、Cilibert and Tamer (2007,ECMT)のモデルからデータを発生させ(パラメータは適当に決める)、我々の統計推測手法を適用し、その妥当性も検証した。以上の追加的なシミュレーション実験により、われわれの手法が経済分析上意味のある設定のもとで、既存の手法と比べてもより有用なものであることが確認された。 また、当該年度において、関数データ分析にも取り組み、目的変数と共変量がともに関数データである場合の関数線形モデルの推定、および目的変数はスカラーで共変量が関数である場合の係数関数に対する信頼バンドの構成といった問題に取り組み、それぞれをまとめた論文がJournal of Multivariate AnalysisとStatistica Sinicaに採択された。
|