研究課題/領域番号 |
15K03402
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
勝浦 正樹 名城大学, 経済学部, 教授 (70224467)
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研究分担者 |
橋本 紀子 関西大学, 経済学部, 教授 (60198687)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | AI需要システム / ベイジアンネットワーク / 罰則回帰 / 家計調査 / 全国消費実態調査 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,家計消費を分析するためのAI需要システム等の分析方法をいくつかの観点から拡張した上で,わが国のデータに適用して実証分析を行い,高齢化の進んだ現代社会における消費・生活行動の実態をより正確に計測することにある.拡張の方向は,①動学モデルの導入,②罰則回帰による推定方法の改善などといった観点である. 平成28年度までは,本研究の目的に関連した消費・生活行動に関する分析方法やその応用例のサーベイ,基本的な実証分析を行ってきた. 平成29年度は,上記①に関して,家計調査のデータを整理した上で,AI需要システムを動学化したモデルを日本経済に適用することによって推定された支出及び価格弾力性の大きさについて詳察し,Katsuura (2017) でその成果を報告した.他方,AI需要システムを構成する方程式は経済理論から導出されるが,その因果関係あるいは支出の決定方式が実際のデータと整合的であるのかを判断することは容易ではない.そこで,ネットワーク分析の方法を用いて家計消費の支出項目間の関係を分析し,その成果を荒木・橋本 (2017) で公表した.同論文では,支出項目のクラスターや支出決定の核となる費目などに関する有益な知見を導出することができた.特にその推定においては,上記②と関連して,罰則項を利用したグラフィカル・ラスー (Graphical Lasso) の手法を応用し,支出額に多くのゼロが含まれるデータに対しても分析可能な手法を開発することによって,支出項目間の関係を検証できた.さらに,消費・生活行動の基礎となる日常的な地域間の人口移動に関して,勝浦 (2018) で昼間人口と夜間人口の関係を分析した.また橋本 (2018) では,世帯構造や人口構成などの変化と関連させながら,本研究に用いる家計調査や生計費調査における基本的な問題点を整理して論ずることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度において,本研究の目的の1つであるAI需要システムの拡張に関しては,先行研究を踏まえた上での動学化したシステムを日本のデータに適用し,それをもとに推定した支出及び価格弾力性の大きさの解釈を中心として,実証分析の成果を国際学会で報告することができた.また,システムにおける変数間の関係をみるために,全国消費実態調査の匿名データ(ミクロデータ)を用いたネットワーク分析に基づいて,クロスセクション分析が中心ではあるものの支出項目間の因果関係に関する新たな知見を得ることができた.特にネットワーク分析においては,罰則回帰に関連する技法を応用した.AI需要システムに対する直接の応用になっているわけではないが,罰則回帰をサーベイし検討する過程で,ネットワーク分析に応用可能であることが明らかになり,その分析結果を公表するに至った. 以上のように,AI需要システムの動学化に基づいた弾力性の導出など実証分析の成果を出せたこと,罰則回帰に関連した方法を本研究に組み込むことができたこと,ミクロデータを利用して消費に関する有益な情報を抽出できたことなどから,本研究の目的をある程度達成しつつあり,最終年度に向けて,おおむね順調に研究が進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
AI需要システムを動学化したモデルに関しては,平成29年度に日本経済のデータ(家計調査)を用いた実証分析を行うことができたので,今年度は,その成果を論文として公表する予定である(平成30年5月現在,国際学会誌に投稿・査読中).また,平成29年度に実施した全国消費実態調査を用いた支出項目間のネットワーク分析を,今後は家計調査の時系列データに適用していく.ただし分析にあたっては,超高齢化社会において特に注目される支出項目である文化的支出などが対象に含まれるように,分析に用いる支出項目の数や構成を再検討した上で,高齢者にとって重要と思われる支出が他の項目とどのような関係にあるのかを実証的に分析していく.その結果は国際学会で報告した上で,報告に際してのコメントなどを受けて内容を改良し,国際学会誌に投稿する予定である. また,超高齢化社会の消費行動の分析として,可能であれば年齢の影響をモデルに組み込む方法を検討していく予定である.そのためには,システムに年齢を組み込むのか,あるいは年齢階級別のデータを整備した上で実証分析を行っていくのかを早急に検討する必要があると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 平成29年度は,全国消費実態調査の匿名データを用いた分析を行ったため,申請の準備,データ整理及びその基本的な分析に時間を要したことは否めない.そのため,匿名データを用いた分析結果を学会等で報告する機会を逸し,旅費等に十分支出ができなかったことなどが,次年度使用額が生じた理由である. 【使用計画】 今年度までの実績ならびにそれらをさらに進展させた実証分析の成果について,平成30年度に学会等で報告する予定であり,次年度使用額は,そうした分析や報告ための諸費用(旅費等)に使用する予定である.
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