研究実績の概要 |
本研究は,多くの需要分析で利用されているAI需要システムを拡張したモデルなどを用いて,高齢化が進んだわが国における消費・生活行動の動向をより正確に把握することを目的としている. 平成29年度までは,先行研究をサーベイするとともに,家計調査を中心として基本的なデータを整備した上で,AI需要システムを動学化することによって拡張したモデルを推定し,支出及び価格弾力性の計測などを行った. 平成30年度の主な成果は,以下の通りである.まず,拡張型動学化AI需要システムを文化的支出等に適用した結果を論文にまとめ,国際学術誌に投稿した(現在,改訂中).またKatsuura, Hashimoto and Araki (2018) では,家計調査の品目別支出のデータにベイジアン・ネットワークの手法を応用し,近年の消費動向に関して品目ごとの因果関係を可視化することを試みた.特に,高齢化社会において重要な役割を果たす教養・娯楽費に含まれる文化関連の支出を詳細に分類し,それらと食料などの必需品的な費目や他の費目との関連性を実証的に明らかにするとともに,勤労者世帯とそれ以外の世帯を含んだ二人以上の世帯の結果の違いを比較しながら,その違いが何によってもたらされるのかについての考察も行った.一方,橋本 (2018) では,子育て世代に焦点を当て,その消費の実態について実証的に分析した.これは,今後の超高齢社会における消費行動を展望するには高齢化だけではなく,少子化の影響も考慮する必要があるという問題意識によるものである.さらに勝浦 (2019) では,定年退職後の高齢者の余暇活動として注目される旅行のうち国内旅行に焦点を当て,国内旅行に対する年齢や就業状態の影響を分析するとともに,コーホート効果などについても考察を行った. 以上の成果から,消費のモデル分析を行う上での重要な知見を得ることができた.
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