本研究では,人々が国の定める「客観的貧困」基準に対してどのような意識を持つのかを,近年の生活保護の厳格化の議論も踏まえつつ,独自の調査から明らかにした。具体的には,前年度実施した調査データの分析と分析結果の発表,そして分析結果の発表により得ることのできた指摘・コメントを踏まえた小規模調査の実施である。 標本をランダムに2群に分けて,それぞれに対して異なる質問項目を設け,人々の生活保護基準額に対する意識の差を見た。「あなたが病気あるいはケガで働けなくなり,国から単身月額約12万円を支給されることになりました。あなたが単身者である場合,この金額についてあなたの考えに一番近い項目を選択してください。なお,あなたは貯蓄をすべて使い果たした状態にあります。」という設問項目について,一方の群には「あなたが」と示し,もう一方の群には「ある人が,当該個人は」と示した。 当該設問項目は,他者の境遇は自らの利益には関係がないが,義務感や倫理観によって相手を思い行動をとるとアマルティア・センが述べる,「コミットメント」の強さを捉えるものであると言える。分析の結果として,調査対象者のコミットメントの弱さによる最低生活基準額に対する意識の差異を確認・指摘することができた。 ここから,誰しもに起こりうる「生活上のリスク」=「収入の中断」へみんなで対処しようという制度についての認識とその教育が重要であることが導き出される。 加えて,上記の設問項目の12万円について,その具体的な内訳を加えた調査も実施した。これにより意識・認識が変化するのか,調査結果を分析している。
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