本研究の目的は、産業の発展段階やライフサイクルを考慮しながら、企業の製品選択に関するメカニズムを明らかにし、企業の製品創出と産業成長に関する有益な洞察を得ることである。この研究目標を達成する為に、日本綿糸紡績産業の歴史的なデータを用いて、どのように需要要因と供給要因が企業製品の選択に影響を及ぼしているのか、どのように企業は需要要因と供給要因を整備しているのかに着目して、実証分析に取り組んだ。 本研究の最終目的を達成する為に、実証分析に必要なデータベースを作成しなければならなかった。平成27年度から継続してデータベースの構築を行っており、本年度は、取締役会の役員名簿、販売ネットワーク、使用されている機械に関するデータの作成に時間と労力を費やした。データベースの構築自体に学術的価値があり、本研究だけでなく、他の研究にも利用が可能であり、日本の産業発展の研究に役立てることができる。 本年度に行ったデータ分析の主な結果は、製品の質の向上を伴う垂直的なプロダクトイノベーションと必ずしも製品の質の向上を伴わない水平的なプロダクトイノベーションをデータで区別することによって、それぞれが違った要因で起きているこが分かった。具体的には、垂直的なプロダクトイノベーションの場合、イノベーションの成果として製品を市場で販売するには、需要の制約でなく、技術的な制約を乗り越えなくてはならないことがデータで裏付けられた。技術的制約とは生産機械や技術者などの確保である。一方で、水平的なプロダクトイノベーションの場合は、技術は存在するが需要の制約を乗り越えなくてはならない。需要の制約とは、需要の変化に対して、それに対応する販売ネットワークの整備や適切な生産管理である。既存の研究では、どのように供給側の要因と需要側の要因が働いているかが明確ではなく、企業の製品創出の源泉を明らかにしたのが本研究の学術的貢献である。
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