自己雇用生産者家計による景気変動安定化作用について,OECD加盟29ヶ国を対象に大後退期と大後退後の2時期にわたり,労働雇用・生産物産出両面において検証した.検証結果は両面において肯定的であった. 被雇用者数の変動が家族雇用によって吸収される割合は,大後退前は35.77%であり,大後退後は39.01%であった.他方,失業に反映されたのは大後退前は33.74%と前者より小さく,大後退後は53.13%と前者を上回った.いずれにも吸収あるいは反映されない部分は国境を越えて移出入したものと考えられる. これらの対応形態には地域差があり,i)旧計画経済圏と地中海圏は主として越境移出入によって解消し,ⅱ)英諸島と北東アジア圏は家族雇用に吸収させた.ⅲ)米州圏と大洋州圏は主として失業に反映させ,ⅳ)北・西欧圏は失業と越境移出入に反映させた. 国民経済計算勘定のうち企業関連勘定の変動係数値は,大後退前は7.04%,大後退後は7.12%であり,家計関連勘定の係数値1.67%および1.87%よりともに大きく,家計内生産活動は企業生産活動より安定的であったことが検証された.ただし,双方ともに大後退後に変動性を増大させており,企業関連勘定の変動係数は1.01%増であるのに対して,家計関連勘定の変動係数は1.87%増に達した.それでも,企業生産活動より家計内生産活動が安定的であることには変わりない. 国民経済計算勘定の変動も地域差が大きい.特に,企業関連勘定について,大後退前に最大変動係数値20.72%を示す大洋州圏は,最小変動係数値9.42%を示す北東アジア圏の6.42倍であり,大後退後はそれぞれ16.60%,2.69%と縮小したものの,この傾向は変わらない.家計関連勘定についても,大後退後に最大変動係数値4.39%を示す大洋州圏は最小変動係数値1.22%を示す地中海圏の3.60倍である.大後退後もこの傾向は変わらず,最大値3.49%を示す大洋州圏は最小値1.27%を示す北・西欧圏の2.75%であった.
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