本研究課題の目的は日本銀行の量的緩和(超過準備の供給)に民間銀行がどう反応してきたかを明らかにすることである。その特徴は個別銀行の財務諸表をもとにパネルデータを構築したこと、中でも単体ベースの年次(3月末)データと並び連結ベースの半期(9・3月末)データを活用していることにある。 平成29年度中は1976年以降の長期データをもとに主に貸出行動を分析した英文論文を全面改訂した。改訂にあたりデータ期間を大幅延長し、また半期データに内在する季節性の取り扱いを抜本的に改善した。同論文を改題して"Quantitative 'Flooding' and Bank Lending: Evidence from 18 Years of Near-Zero Interest Rate"とし、国際的学術誌に投稿、現在審査結果待ちである。また2013年以降の量的質的緩和期の地方銀行に焦点を絞り、貸出に限らず国債保有行動などに分析対象を広げた英文論文についても同様な全面改訂を行った。この作業においては平成28年度中に構築していた国債・地方債の9月末保有額に関する新たなデータが役立った。同論文は平成29年度中を通じて国内外の学会で報告し、そこで得た貴重な助言をもとに現在、最終の改訂作業中である。完成次第、国際的学術誌に投稿予定である。このほか、より幅の広い読者層を念頭に、計量経済学的手法を用いず、グラフによる視覚的理解を中心に銀行行動の特徴を明らかにする日本語論文を執筆し、書籍の中の1章として公刊することができた。 これ以外に新たな方向性を持った研究として、国債市場、特に国債のデリバティブ(先物と先物のオプション)市場の分析を進めた。これら市場に関する分刻みのデータを入手し、日本の金融(及び財政)政策に関するアナウンスメントや海外の金融政策に関するニュースに市場がどう反応したかを分析した。その成果を論文にまとめ、国内外の学会で報告した。
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