研究実績の概要 |
2018年度は研究最終年度であり,これまでの研究を更に積み上げ,全体を総括すると同時に,新たな方向性も模索した.まず,2018年9月にLeeds大学(イギリス)で多国籍企業の撤退について,企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility, CSR)の観点から評価すると同時に,撤退過程におけるEUの役割についても検討する内容の学会報告を行った. 多国籍企業の撤退を主題とする本研究の総括的成果として,日本国際ビジネス研究学会の学会誌(査読付き)に,論文を発表することが出来た.本論文では,多国籍企業の撤退が,進出先国の子会社を閉鎖するだけでなく,本国工場施設や子会社などの閉鎖を通じた撤退も積極的に行っていること,それら撤退事例が,単に競争激化のための業績悪化に拠るもののみならず,新たな成長分野への進出のための「創造的破壊」も含むことなどを示しえた.この論文の抜き刷りを内外の研究者に送付し,全般に好意的なコメントを受けることが出来た. 研究を総括しながら,今後の方向性を考慮する際,従来見逃されていた直接投資と国際労働力移動の関係に気付くことが出来た.例えば,多国籍企業は,投資先からの撤退に際して,従業員に本社や他国の子会社への移転を提案していることが,新たな知見として得られたが,この問題は従来の研究では見逃されていたものである.他方,適切な従業員の獲得,配置が出来なければ,時に撤退が生じることも見出された.逆の視点から言えば,移民労働力などを受け入れることが,直接投資の受入にプラスに作用する可能性が考えられる.
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