本年度は次のような研究を行った. (1) 諸事情のために延期していたフィンランド自治体向け質問紙調査を準備し,実施した.自治体における「イノベーションのための公共調達」(public procurement for innovation)について,代表的な調達事例に即して,どのような組織体制とマネジメントの下で行われているのか,そこではいかなる外部組織との連携が行われているのか,いかなる外部情報源に依拠したのか,また,直面した困難の内実とその解決方法について尋ねた.それとともに,当該調達の成果にかんする評価を尋ねた.その結果,先行研究では明らかになっていない,この新しいイノベーション政策の実施に関する詳細な情報を得ることができた. (2) これまでの調査結果を総括し,調達者(=財・サービスの買い手である中央・地方政府機関)と供給者(=民間企業)を仲介する中間組織の機能を「触媒作用」と規定し,触媒作用が社会的にどのように担われているのかを明らかにする論文を発表した.具体的には,いわゆる「北欧モデル」の制度的諸特徴は,触媒能力を持った中間組織の蘇生を後押しするのみならず,労働市場の高い流動性とセーフティネット,業種別賃金格差の小ささは,触媒能力を持った個人を中間組織に移動させる役割も担っていることを論じた.以上の議論は,進化経済学の観点から「強い進化的政策」として理解・解釈できることを論じ,新しいイノベーション政策は進化経済学の観点から十全な理論的基礎付けが可能であることを示した.
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