研究課題/領域番号 |
15K03433
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
岡部 美砂 和歌山大学, 経済学部, 准教授 (20434649)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 後発国のキャッチアップ / ASEAN / EU / 地域経済統合 / 産業構造高度化 / 付加価値貿易 |
研究実績の概要 |
平成28年度の課題は、国際産業連関表の収集と欠損年の補完等の作業を完了し、後発国の産業構造高度化の分析を行うことであった。これらのデータの主要部分は平成28年度前半までにほぼ完了した。そのため前年度より分析を開始していた、貿易統計の細分類データによる後発国の地域経済統合への参加とハイテク製品の輸出能力の向上についての分析に加えて、ASEANの後発国の輸出企業のデータを用いて、グローバルサプライチェーン(GVCs)への参加度合が、企業レベルでの生産性向上、輸出競争力の維持・上昇に与える影響の分析を行った。まずASEANの後発国であるカンボジアを対象として、国際産業連関表に基づき、電子機器、輸送機器および繊維衣服産業の企業データと、国際産業連関表を用いて産業ごとのGVCs参加度を推計し、それらと企業レベルでの生産性の向上や輸出競争力の関係をHS2桁レベルで検証した。その結果、GVCsへの参加形態によって生産性への影響が異なることを見出した。特に、カンボジアの主要産業である衣服産業では、GVCsの最終段階(最終消費財への輸出)への参加が輸出成長に正の効果を及ぼすことが分かった。この研究成果は11月の東アジア経済学会で公表した。また、28年度後半には、ASEANとの比較として計画していたEUの後発国の輸出企業を対象とした分析を行った。EU後発4か国の輸出企業データと、国際産業連関表をもとに同様の手法を用い、カンボジアのケースとは異なる結果となることを見出した。この研究結果は国際大西洋経済学会で報告し公表した。これらの研究成果に基づき、最終年度である平成29年度は引き続き対象国を拡大し、ASEAN、EUの比較に基づいて経済統合が後発国のキャッチアップを促すのか、特に産業構造高度化へ与える効果を分析し最終的な結論を導出する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画していた国際産業連関表と各国の産業連関表を用いた欠損年の推計等によるデータベース構築は、国際機関・研究機関が公表する最新データを用いることで当該年度の早い段階でほぼ完了させることができた。そのため、平成28年度に予定していた、ASEANの後発国を対象とした分析と研究論文の草稿の完成、および、地域間の比較のため、同様の分析をEUの後発国を対象として行い、論文の草稿を予定どおり完成させることができた。具体的には、当該年度の前半でASEANの後発国のキャッチアップ過程の分析として、カンボジアを対象とした企業レベルデータと国際産業連関表を組み合わせた分析を進めることができた。後半には同様の分析をEUの後発国であるブルガリア、クロアチア、スロベニア、ルーマニアを対象国として実施した。これらの研究成果は、東アジア経済学会および国際大西洋経済学会で報告を行った。現在、これらの報告論文を修正・改良して学術誌に投稿し公表する準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究開始からの2年間(平成27年度~28年度)で得られた研究結果は、主に財別貿易または企業レベルでの生産性成長と地域経済統合の関係について分析したものである。特に、企業や財レベルのデータを用いて、国際間の産業連関の参加への関与の度合いによって、地域経済統合が後発国のキャッチアップに与える効果がケースごとに異なることを明らかにした。一方、本研究の研究計画の主眼は、ASEANとEUの比較を通じて、地域経済統合のもとでの後発国の産業構造高度化が可能かどうか、またそれらを促す要因を見出すことである。よって、平成29年度(最終年)に残された課題として、これまでの研究成果に基づき、分析方法や対象を改良・拡張するとともに、ASEANとEUの地域間の比較から長期の観点から得られる結果の検討を行っていく。特に、これまで分析してきたASEANおよびEUの後発国の企業レベルおよび財レベルでの生産性の成長が、産業レベルで見た場合の長期的な生産性上昇につながるか、さらには産業レベルでの比較優位の変化という、長期的な産業構造変化の観点からの分析を行うとともに、政策的インプリケーションを導出する。これらの分析を通じて、本研究の結論を導出することに留意して研究全体を締めくくりたい。また、同時に、これまでに完成した研究の草稿を学術雑誌等で公刊し、研究成果を公表することも早期に実現させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は予定していた国際産業連関表に基づいた推計用データベースの収集と加工が完了し、それらのデータを用いて研究を進めることができた。平成28年度は主にそれらのデータベースを用いた推計と分析、そして論文執筆を中心に行った。途中経過として、ASEANの後発国のキャッチアップの可能性および経済統合の影響に関する専門家のコメントを収集するための現地調査を行い、分析結果の解釈や、分析手法の修正に役立てることができた。一方、分析は企業レベルおよび財別レベル、かつ複数国をカバーするものであったので、データによる推計作業と分析により多くの時間を費やすことになった。そのため、各論文(草稿)完成後の学会報告以外に、予定していた現地調査や研究結果を踏まえた研究者との意見交換がまだ全て完了していない。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究成果(草稿)を踏まえて研究会やセミナーを通じた各国研究者との意見交換や、現地調査を平成29年度の早い段階に行う予定である。そのための旅費および資料収集の予算を平成29年度に実施する予定である。さらにその後、研究成果の学術誌への投稿・公表をおこなうため、そのための予算(英文添削、投稿料)の実施を平成29年度の前半には全て完了させる予定である。
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