本課題の研究目的は,汚染削減技術に関する国際的な協定の有効性について,主に提携形成ゲームの枠組みを用いて理論的知見を得ることであり,具体的な研究テーマは,(1)R&D投資の不確実性,(2)ゲームのプレイヤーである国家の立場の相違(非対称性),(3)汚染による被害の不可逆性という3つの要因に焦点をあてた分析を行うことである. まず第1のテーマについては,平成28年度に執筆した論文にさらに検討を加え,現在学術雑誌への投稿を準備しているところである. 公刊された著書(分担執筆)は第2のテーマにかかわるものであり,概要は以下のようになる.パリ協定などでも明記されている国家間での汚染削減に関する技術協力を,1つの先進国と1つの途上国がプレイヤーとなるゲームモデルとして記述した.各国は越境汚染をもたらす汚染物質の削減量を戦略として決定する.分析の結果,協力がない場合と比較して,2国間クレジット制度に類似した技術協力が,クレジット認証率が十分大きいという条件のもとでは,途上国だけでなく先進国の均衡における削減量も増加させ,さらに総厚生を高めるという結果を得た. 第3のテーマについては,汚染の総排出量がある閾値を超えると社会全体の受ける汚染による被害が不連続に増加するという仮定をおき,閾値を超えないことが効率的である場合に,国際協定の存在によって効率的な均衡が現れるという結果を示した先行研究の拡張を行っており,近いうちに論文の形にまとめる予定である.
|