本研究の目的は、先進国が途上国に対して実施している開発援助についてとりあげ、これを効率的に実施する手法について研究することである。特に援助受け入れ国のおかれた様々な要件の違いに着目し、これらが援助の効果に対してどのような影響を持つのかを検討する。具体的には貧困の程度、所得の分布状況、人口の変化に代表される経済環境の違い、政治の安定性等に着目することになる。 したがって研究全体を通じて重要となってくる要素は、異質な個人、あるいは異質な国を前提とした援助の効果を検証するという点である。 研究最終年度となる本年度は、低所得国が受け取る援助(援助総額および分野別援助額)と、所得分配の指標(ジニ係数、貧困ギャップ率、所得集中度など)や経済成長率との関連性に着目した分析を行っている。分野別の援助額に着目すると、特に生活関連の援助が貧困の改善に貢献している。 またモデル分析の点においては昨年度までに引き続き、所得分布を考慮した理論モデルを構築している。現状は、援助受け入れ国において、所得層が二分されているケースを(豊かな層と貧しい層)前提としており、援助受け入れ国特有の子供の労働を考慮したモデル分析を行っている。貧困に直面した国で観測される事実として、出生数が多くなる傾向があること、子供を労働力として取り扱う傾向があることが言われており、この点を明示的に取り扱っている。モデルの特徴は人的資本の蓄積、出生率を考慮している点である。その結果、援助の対象の違いが、所得分配の違いに結び付くことが示されている。
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