本科研では、(1)人的資本蓄積と所得分布の推移に関する理論研究、(2)産出の人的資本弾力性に基づいた動学リカードモデルに関する理論研究、以上2つのプロジェクトを設定して、研究を進めた。プロジェクト(2)は現在も進行中であるが、プロジェクト(1)に関する論文は、2018年度に国際的な査読付学術誌であるAustralian Economic Papers に掲載が決定した。 プロジェクト(1)に関する研究において、我々はoccupational choice modelを拡張し、所得格差の永続化を説明する新たなモデルを提示した。我々のモデルは、人的資本の量により区別される2種類の労働者と、異なる消費財を生産する3種類の職業が存在する、人的資本蓄積を伴う世代間重複モデルである。 我々のモデルでは、職業間の人的資本集約度が異なるので、比較優位のパターンが各労働者の職業を決定する。高技能労働者のほうが高い賃金を稼ぐので、人的資本蓄積を通じて家系間の所得格差が拡大する。しかし、高技能労働者の人的資本の伸びによる生産性の改善は、人的資本集約的な財の生産性の改善をもたらし、高技能労働者が比較優位を持つ職業により産出される財の相対価格の低下をもたらす。これは高技能労働者の賃金の伸びを押しとどめる効果を持つので、所得格差の拡大を抑制する。これら2つの効果がつりあうことにより、定常状態における格差が永続化する均衡が存在する。 さらに、我々は技能偏向的技術進歩の効果を分析した。このような技術進歩は、労働者の比較優位のパターンを変化させ、あるパラメーターの範囲において、永続的な所得格差を拡大することを我々は示した。
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