研究課題/領域番号 |
15K03449
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
篠崎 剛 東北学院大学, 経済学部, 准教授 (80467266)
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研究分担者 |
金子 昭彦 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (10282873)
濱田 弘潤 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (70323954)
柳原 光芳 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (80298504)
加藤 秀弥 龍谷大学, 経済学部, 准教授 (80434629)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 統一経済成長モデル / 経済援助 / ロビー活動 / 政治活動モデル |
研究実績の概要 |
平成28年度は,(1)世代重複モデルによる経済援助の研究を発展させることができただけでなく,(2)統一経済成長理論における利益集団と政治家の行動のモデル化を,精緻化することに成功し,平成28年度開催の学会および研究会にての報告を行うことができた。 (1)については,世代重複モデルと経済援助の関係に焦点を当てた研究が、4本の論文(3本の査読付き英語論文と1本の日本語論文)として学術雑誌に掲載することができた。第1に経済援助の受取国における世代間の所得配分の効果を明らかにしたもの(Hamada, Kaneko, and Yanagihara (2016) ),第2に,賦課方式年金制度のあるもとでの経済援助の効果を明らかにしたもの(Hamada, Kaneko, and Yanagihara (2017)および第3に消費習慣が形成される下での経済援助の効果を明らかにしたもの(Hamada, Shinozaki, and Yanagihara (2017),濱田 (2016))であった。また,(1)に関連して,消費習慣のあるもとで,出生率の意思決定と経済成長率の関係という,経済発展にかかわる重要なテーマを,これらの一連の研究の派生論文として出版することができた(Kaneko, Kato, Shinozaki, and Yanagihara (2016))。 (2)については,昨年度,南京大学で報告したロビー活動と経済成長の関係をさらに精緻化させることができた。特に,様々な経済成長経路が土地所有者数およびロビー活動の機会費用の大きさによって出現すること,および政治献金が経済成長の減少関数にあること,の2点を新たに明らかにすることができた。その成果は,China Meeting of Econometric Societyにて報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目は,研究計画書に記載した計画に従い,新古典派成長モデルを用いて,経済援助と経済成長の関係を明らかにし,いくつかの査読付き論文に掲載された。 はじめに,Hamada, Kaneko, and Yanagihara (2016) が,経済援助の拠出国および受取国での世代間の負担および拠出割合が,次に,Hamada, Kaneko, and Yanagihara (2017) が,賦課方式の年金「制度」が,要素価格の変化を通じて,定常状態の経済厚生に影響を与えることを明らかにした。これは過去の研究成果のように,経済援助の市場のみを通じた効果を分析するにとどまらず,意図のある所得配分の変更や制度設計が,両国の経済状況に重要な影響を与えることを明らかできたという成果を示している。 これに加えて,Hamada, Shinozaki, and Yanagihara (2017) は,経済援助の拠出国および受取国に消費の習慣形成が存在する場合に,定常状態の経済厚生への影響を分析し,トランスファー・パラドックスが生じる可能性を明らかにしている。主な結論は,拠出(受取)国に消費習慣がある場合,経済援助による消費減少(増加)が新たな負(正)の効果を拠出(受取)国に生むことにある。習慣形成が存在する場合,上記の副次的効果を考慮に入れた上で,有効な経済援助の在り方を検討する必要があることが,本論文の政策的含意として示された。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の平成29年度は,これまでにいくつか論文等で出版した「新古典派経済成長理論とトランスファー問題」に関する研究成果を,ロビー活動が存在する統一経済成長理論へと統合することで,研究計画書に記載した当初の研究目的を完遂することを目標とする。特に,平成27年度および平成28年度の研究打合せを通じて,(1)政治経済活動のない統一経済成長モデルのカリブレーションの構築可能性,(2)経済援助に関する政治活動の効果を比較静学分析を通じて明らかにすること,の2点が議論されてきた。従って,平成29年度の研究では,統一経済成長モデルに静学モデルの特徴(経済援助の配分に関するロビー活動の影響)を組み込んだモデルを構築し,ロビー活動が経済発展経路に対して,どのような影響を与えるかを明らかにする。 その際に,現実的な政策的含意を得るために,研究分担者のこれまでの研究実績を考慮して,カリブレーションを実施する予定である。とりわけ,新古典派経済成長モデルを用いて経済援助の効果を分析した,Carter (2014)およびCarter, Postel-Viney, and Temple (2015) で用いられたパラメターを参考にして分析を行い,経済援助に関する政治活動の効果について明確に示すと共に,発展途上国の経済発展に必要な経済援助額および適切な援助の期間について解明することを計画している。 研究成果は,国際経済学会PRSCO2017で報告し,報告論文について平成29年度中に国際的評価の高い海外の査読付き論文への投稿・出版をめざす。さらに上記の研究計画にしがたいモデル化を進めた論文を,平成29年度3月開催予定のイタリア,シチリアにて行われる国際学会で報告し,研究成果を広く内外に発信することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
使用額に差額が生じた理由は,(1)研究打合せのために出張することなく,オンラインでの打合せを多くすることができたこと,(2)平成28年度に海外学会および研究会での報告機会があるために渡航費の確保,および(3)最終年の論文出版のために英文校正,投稿費を残す必要が生じたことである。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画通り,最終年度の英文校正,投稿費に使用するだけでなく,平成29年3月にシチリアでの研究会,他の学会参加を通じて,これらの繰越金を使用する。
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