研究実績の概要 |
本研究の目的は,政治家の選択が利益集団の行動により影響を受ける場合における経済援助の経済成長効果およびその経路を分析し,援助国および被援助国にとって望ましい援助のタイミングおよび期間を明らかにすることにあった。最終年度は,下記に示した成果をあげることができた。 第1は,Hamada, Kaneko and Yanagihara (2017) における,賦課方式年金がある場合における経済援助の効果についての分析である。強調されるべき点は,拠出国が受取国より高い貯蓄率を持つ場合において,賦課方式年金は両国の定常状態の経済厚生を悪化させる可能性を高めることが明らかにされた。この研究は,受取国の年金制度を考慮したうえで経済援助を行わなければ,その効果が減退してしまう可能性があることを意味している。 第2は,Hamada, Shinozaki and Yanagihara (2017) における,親の消費(生活)水準への願望(aspiration)を個人が有している場合の経済援助の分析である。これは拠出国において,親の消費水準への願望が高いほど,その経済厚生を高めることを,受取国の親の消費水準への願望が強い場合は,その消費の増加度合いに依存して,経済厚生が減少する可能性を有していることを示すことができた。 第3は,Hamada, Kaneko, and Yanagihara (2018)における,内生成長のある世代重複モデルを用いた銀行の不完全競争の程度と経済成長との関係について分析したものである。これは経済援助の動学分析を考える上で,被援助国の金融制度が援助の有効性に影響を与える点を検討するための一つの派生的な研究課題であった。分析の結果,預金利子率の上昇が経済の定常成長率を増加させること,銀行間競争が激しくなるにつれて経済成長が増加すること,を明らかにすることができた。
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