研究実績の概要 |
先進諸国で進行するマクロ経済の「長期停滞」に関して,おおむね四つの研究テーマについて分析を進めてきた.第一に,長期停滞がもたらす格差を是正するための金融財政政策の役割,とりわけ最適な資本課税について,論文"Optimal Income Taxation with Parental Transfer"(with Yuta Saito)をNanyang Technological University, Singaporeで開催されたWestern Economic Association Internationalの年次総会において報告した.そこでは,親子の選好に異質性がある場合,親から子への贈与が子の行動を律するため,政府による最適な資本課税がMirrlees(1971)の理論とは異なることを示した.参加者のMirrlees教授との個人的な議論においても,本研究の特徴について示唆を得た. 第二に,長期停滞のもたらすマクロ経済的帰結,とりわけ家計金融が受ける影響について,Goethe University Frankfurt, Germanyで開催されたBehavioral Macroeconomics and Finance, Household Financeの二つのコンファレンスに参加した.自己実現的期待および衒示的消費に関する既存研究を学び,家計金融を研究するこの会合への定期的な参加を決めた.また,日本における消費不況の特徴を『社会生活基本調査』(総務省)のデータを用いて,時間利用の観点からも明らかにする. 第三に,長期停滞のメカニズムについて,自己実現的期待形成を含む家計の予備的貯蓄に関する理論モデルの構築に関連して,同じテーマの研究者との議論から,期待のコーディネーションの考え方を採り入れる. 第四に,長期停滞における金融財政政策としての株価ターゲティングについて,これまで行なってきたアプローチを変更し,代わりに,金融システムに関するHyun Song Shin教授のモデルを援用する.量・質・金利の三次元で構成される中央銀行の非伝統的金融政策スペースのモデルを構築し,株価などの資産価格への効果が高い政策への割当について分析する.
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