研究課題/領域番号 |
15K03456
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
伊藤 恵子 専修大学, 経済学部, 教授 (40353528)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 経済政策 / 事業構造変化 / 取引関係 / 企業行動 / 国際競争 / 国際生産ネットワーク / グローバル・バリュー・チェーン / 特許出願 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際競争が激化する中で、企業内部でどのような事業構造の変化が起きているのか、そして、企業内構造変化が取引関係の変化を通じて、産業内や一国全体の経済構造変化にどのような影響を及ぼすのかを解明することを目的としている。平成29年度は、主に、企業間取引関係の変化の研究と、国際的な生産ネットワークへの参加の度合いやネットワーク内における相対的な位置の変化が企業の技術や生産性にどのような変化を与えたかの研究を進めた。前者に関連した研究は、国内外の研究機関からディスカッション・ペーパーとして公表し、海外の学術雑誌への掲載にむけて改訂中である。 前者の研究では、中間財の輸入を開始した企業は、輸入していない企業よりも、国内サプライヤーの組み換えを活発に行う傾向が確認された。比較的遠方の汎用品を供給するサプライヤーが輸入に置き換えられる傾向が強い一方、関係特殊性が高いような業種のサプライヤーは輸入に置き換えられにくく、取引が停止されることも少なかった。 また、国際的な生産ネットワークへの参加度合やネットワーク内における相対的な位置の変化が、国内企業の技術開発や技術領域、生産性にどのような変化をもたらしているかを解明するため、日本企業の特許出願状況、特許の質的変化、特許情報から計測した技術領域の変化などを分析している。日本のほぼすべての産業で、国際的な生産ネットワークへの参加度合は高まっているものの、ネットワークの内部で、他国と比べて相対的にコアから周縁に移りつつある。特許出願で測った技術水準の向上のためには、ネットワークのコアに近いところで、より多くの海外顧客からネットワークを通じた情報や技術のスピルオーバーを受けることが重要であることを示唆する結果が得られている。さらに、企業別の海外生産拠点の情報を追加し、より精緻な分析にしていくべく、研究を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の開始以来取り組んできた、多国籍企業化と国内事業構造変化の研究については、一つの論文が英文の査読付き学術雑誌に掲載され、刊行された。また、輸入の開始と国内サプライヤーとの取引関係の変化についての論文は、国内外の研究機関からディスカッション・ペーパーとして公表し、海外の学術雑誌に投稿したが、査読コメントを参考に、現在改訂中で、近日中に再投稿の予定である。 また、国際的な取引ネットワークへの参加度合やネットワーク内での位置と、技術水準との関係についての論文については、平成29年度中に国内外の学会で途中経過を報告した。学会でのコメント等を踏まえて、より精緻な分析を進めており、今年度中に、ディスカッション・ペーパーとして公表、海外の学術雑誌への投稿・掲載を目指している。 国内外の研究協力者とも密に連絡を取り合いながら研究を進めており、平成30年度中に、2本程度のディスカッション・ペーパーの公表、国内・海外での学会発表も予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、これまでに公表したディスカッション・ペーパーの改訂・学術雑誌への投稿を進めていくとともに、平成28年度から着手した特許データの分析をさらに精緻化していく。平成28年度は、研究代表者が在外研究に従事していたため、在外研究先の経済協力開発機構(OECD)の研究者たちと非常に緊密に協力することができたが、平成29年度は研究代表者が帰国しなければならず、OECDの研究者との共同研究が少し停滞してしまった面はある。 平成30年度は、夏季休暇期間などを利用してOECDに一定期間滞在し、OECDの研究者らとの打ち合わせやOECDのデータベースを利用した共同分析作業などを進め、論文執筆作業を加速する予定である。そして、引き続き、学会報告、学術雑誌への論文投稿を積極的に行って、研究成果を公表していくことに注力する。研究計画の変更を要するほどの課題ではないものの、日本の大学の夏季休暇期間の開始が遅いことと期間が短いことは、欧米の研究者との共同研究を進めるにあたって、かなり障壁になると感じた。つまり、特にフランスの研究機関・研究者は、7月半ば~8月に5週間程度の休暇を取るため、8月下旬まではOECDに滞在しても他の研究者と会って議論することが難しい状況である。やはり、日本の大学も6月から夏季休暇に入るなり、6月~9月のまとまった期間に海外研究者との共同研究を円滑に進められるような体制を整える必要性を強く感じた。 一方、研究成果を日本語でも発信するため、日本語での刊行物に研究成果の一部を紹介することも進めていく。
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