本研究は、日中両国の経済成長をリードしてきた京浜地域と長江デルタ地域における「産業集積の広域化」の比較研究である。 戦後日本の経済成長を牽引してきた京浜地域では、大手製造業と中小製造業との協業を通して、産業集積が形成された。その後の生産拡大とインフラ整備に伴い、京浜地域の産業集積は北関東、甲信越、南東北、さらに国際的な産業調整に伴い、東アジアへと広域化した。なかでも、上海を中心とする長江デルタ地域は京浜地域の産業の受け入れ地区となった。 一方、中国経済の中核都市・上海の産業・企業は、かつての京浜地域の製造業と同様に、生産拡大とインフラ整備に対応して、隣接する長江デルタ地域、まず蘇州と無錫、次いでその周辺地域へと広域化した。長江デルタ地域の中心に位置する江蘇省では、①長江南岸の蘇南地区から、長江北岸の蘇北南部地区、さらに蘇北北部地区への製造業の移転が進行し、②かつて省内最大の工業基地であった南京地区の製造業の地盤沈下、あるいは蘇州地区への産業移転の傾向がみられた。しかも京浜地域の製造業の長江デルタ地域への進出により、「産業集積の広域化」は国際分業の色彩を強めていった。 本研究では、次のような成果が得られた。第1に、マクロ・レベルでは、工業統計を通して「産業集積の広域化」が確認できた。とくに長江デルタでは、県レベルの産業集積の把握が容易でないために、ミクロの企業データの集計値を用いることで代替した。第2に、ミクロ・レベルでは、甲信越・東北や長江デルタで現地調査を実施し、産業移転の実態と背景を把握することができた。同時に、比較対象枠として、中国のもうひとつの産業集積・珠江デルタ、長江デルタから国外への移転企業にもヒアリングができた。第3に、京浜地域と長江デルタ地域の産業移転の共通点と相違点をまとめ、日中間の産業・企業連繋のあり方を考察した。
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