研究課題/領域番号 |
15K03458
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
宮田 幸子 立命館大学, 経営学部, 准教授 (10646764)
|
研究分担者 |
秋田 隆裕 立教大学, 経営学部, 特任教授 (50175791)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 所得格差 / 中高等教育拡充 / 教育の収益率 / インドネシア / 家計調査データ / 産業の構造変化 |
研究実績の概要 |
今年度は、都市化及び教育拡充下における教育の労働への影響と世帯間消費支出格差について2つの研究を行った。1つはインドネシアの賃金構造及び教育の収益率について、前年度に入手した社会経済家計調査データ(SUSENAS)を用いて、農村と都市, ジェンダー別、産業別など、様々な側面から分析した。ミンサー型賃金関数により賃金構造および教育の収益率を様々な計量経済モデルを用いて推計した。その結果、同様の計量モデル(最小2乗法(OLS)、ヘックマンの二段階推定法等)による先行研究と概ね同範囲内(教育の収益率7~11%)の推計値となった。また就労者の産業セクター別に推計した結果、教育の収益率はサービスセクター従事者が一番高いことがわかった。一方農業セクター従事者は一番収益率が低く、サービスセクターと約2倍以上の差となることがわかった。賃金については、農業部門従事者において男女の格差が一番大きく、サービス部門においても格差は認められるものの、農業・工業セクターと比べるとその差は小さいことが確認された。またOLS分析にて労働不参加者等のサンプルの脱落により生じるサンプルセレクションバイアスの問題に対処するため、ヘックマンの二段階推定法を用いて推計を行った。その結果、理論と整合のとれた結果が得られた。教育の収益率、賃金の産業従事者別の推計結果は、OLSの結果とほぼ同じ傾向が確認された。 2つ目は同全国家計調査データ(SUSENAS、1996年~2010年)に基づき階層的格差分析手法により、インドネシアの世帯間消費支出格差の推移を分析した。その結果、都市と農村間の格差は家計間消費支出格差の約2割を説明している。また県・市間の格差については、家計間消費支出格差への寄与度に関して都市と農村地域で異なる値を示した。都市と農村別に寄与度を計測すると、都市では20-30%に対して、農村では15-20%になることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目的は昨年度入手したデータを分析し、学会発表を行いコメントを得ることであった。その目的は概ね達成された。平成28年度は昨年度に引き続き、先行研究の整理とインドネシアのこれまでの政策経緯などをさらに詳細に把握するため、教育や所得格差に関する報告書や統計が揃う国際機関 (世界銀行、アジア開発銀行)や研究所などのホームページや研究代表者・協力者が所属する大学が契約する論文検索システム(EBSCOhost、JSTOR他)を用いて、中高等教育拡充政策と世帯間消費格差に関する最新の資料と学術文献の収集を行った。インドネシアの統計局・教育省などを訪問し、中高等教育拡充に関連する最近の政策、関連データの把握調査を行った。教育省によると国立大学と共同で就職追跡労働調査を実施したことが分かった。ただしデータの集計中や未公開公開の可能性があり、データ入手の可能性について調べ始めた。 SUSENAS2012年による分析の成果は、インドネシアのバンドンでの国際学会においてセミナー参加者から有益なコメントが得られた。現在、教育政策の影響について分析を行っている。その研究成果は、国際学会にて発表の予定である。 一方、消費支出格差に関しては、1997年から2010年までの長期にわたる全国社会経済家計調査データを用いて、家計間の消費支出格差の推移を都市と農村、地域、州、県・都市など様々な地域別に分類し、分析を行った。研究成果は、タイのバンコク、及びインドネシアのマランにおける国際学会、及びアジア開発銀行研究所(ADBI)の国際セミナーにて発表し、ADBIのワーキングペーパーとして公表した。さらにその修正バージョンは、査読付き国際学術雑誌に投稿中である。なおフィリピンに関して上記の分析手法により、教育拡充により教育への収益率の分析、及び地域間格差の推移を分析する計画であるが、データ収集を実施できなかったため次年度に実施予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
H29年度は、前年度に引き続き世界銀行などの国際機関刊行物や学術雑誌より中高等教育拡充と世帯間消費支出格差に関する最新の資料と学術的文献を収集する。インドネシアの国家開発計画長(Bappenas)とフィリピンの国家経済開発局(NEDA)や教育政策を扱う省庁などを訪問し、都市政策、教育拡充関連政策、貧困・格差是正政策などに関する最新の資料と文献の収集を行う。加えて、教育省と国立大学と協力して実施した就職追跡労働調査について、教育省・実施大学を訪問し、データの入手可能性を含めて、関連する資料や報告書の収集を行う。 教育拡充下におけるインドネシアの賃金構造と教育の収益率についての実証分析については、昨年度得られた教育の収益率の分析結果について、セミナーや学会発表などで得られたコメントを反映し、政府による教育政策の影響を分析し、論文としてまとめ、国際学会などで公表する予定である。なおデータの状況や資料収集の進捗によって、分析対象トピックを若干修正し、結果をまとめられるように対応する予定である。結果を論文にまとめ、国内外のセミナー、学会にて公表する。さらにワーキングペーパーなどで公表する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に予定していたインドネシアのジャカルタ市以外への地域及びフィリピンへの資料・データ収集の出張がキャンセルとなり、その分の海外出張費の支出がなくなったため。また、それに伴い新たな家計調査データなどの購入が実現しなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度中にインドネシアのジャカルタ市以外への地域及びフィリピンへの資料・データ収集の出張を計画している。また新たな家計調査データの購入を予定している。
|