研究課題/領域番号 |
15K03462
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小林 信治 日本大学, 経済学部, 教授 (90258509)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プリンシパル / エージェント / アドバース・セレクション / 私的情報 / モニタリング / 契約理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,複数エージェントが私的情報を有する状況下で,大規模投資が必要な場合における最適な組織構造の問題を焦点に,プリンシパルと複数エージェントとの間の契約設計に関する理論的考察を行うことである.これまでに得られた主要な結果は以下のとおりである. 複数エージェントが私的情報を有する状況下において,プリンシパルによるモニタリング手段の選択および残余請求権帰属の決定に着目し,一般的な費用関数の下での最適契約問題を考察した.各エージェントが個別に契約を締結する場合と単一の契約を締結する場合との比較を行い,残余請求権の帰属およびモニタリング手段の選択,ならびに,分権的組織構造と統合的組織構造の間の選択に関して最適契約の特徴付けを行った. つぎに,プリンシパルとエージェントに加えて,エージェントの私的情報を収集する役割を有するスーパーバイザーを導入し,三層構造モデルにおける契約設計問題を考察した.これまでの文献における研究とは異なり,本研究においては,より一般的な費用関数を考慮に入れたモデルの分析を行った.均衡契約において,エージェントのタイプ間の固定費用の差異によって情報レントが決まること,ならびに,相殺インセンティブが生じる可能性を示した. 本研究の学術的特色・独創性は,公共財等の供給と最適組織構造に関する問題に関して,固定費用を含む一般的な費用関数を考慮したこと,かつ,私的情報を有する複数エージェントが存在する下での契約設計問題として考察したことに存すると言える.プリンシパルによるモニタリング手段の選択および残余請求権帰属の決定をモデルの主要な要素として導入したこと,ならびに,分権的組織構造と統合的組織構造の間の選択に関して,均衡契約の特徴として相殺インセンティブが生じることを示したことに,本研究の重要な結論の意義および政策上のインプリケーションがあると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私的情報を有する複数エージェントが存在する下での最適契約設計問題に関して,モニタリング手段の選択,残余請求権帰属の決定,および分権的組織構造と統合的組織構造の間の選択に関して均衡契約の特徴付けを行った.得られた研究成果を論文にまとめ,国際学会で研究発表を行った.現在,本研究に関する論文を国際学術誌に投稿する準備を行っている. プリンシパルおよびエージェントに加えて,スーパーバイザーを導入したモデルに関しては,本年度の国際学会において研究成果を発表する予定である.その後,研究成果をまとめた論文を国際学術誌に投稿することを計画している. さらに,一般的な費用構造の下において相殺インセンティブが最適契約の主要な特徴であることを示す研究に関しては,現在までに,各参加制約と各誘因両立制約が有効であるか否かが私的情報であるエージェントのタイプ間の固定費用の差異に依存し,このため,相殺インセンティブが生じることおよび情報レントの大きさが異なることを証明している.すなわち,本研究の成果として,最適な組織・産業構造はタイプ間の固定費用の差異に依存し,その結果,統合企業との契約と複数企業との契約との間の選択が決定されることが明らかにされている.今後,これらの研究成果を国際学会等で発表する予定である. また,エージェントの一部に契約の権限を移譲するヒエラルキー型の組織形態の下での最適契約問題を研究中である.とくに,従来の研究では扱われていない固定費用が考慮される.エージェントのタイプに関する分布が連続的な場合に基本モデルを拡張し,複数エージェントのアドバース・セレクション問題を分析する研究を開始している.この研究は,相殺インセンティブ考察の問題を複数エージェントの場合へ拡張することにより,情報分散と情報連結の問題および相殺インセンティブの問題を同時に連続分布の下で分析するものである.
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今後の研究の推進方策 |
エージェントの私的情報を収集する役割を有するスーパーバイザーを導入した基本モデルに,さらに複数のスーパーバイザーおよび複数のエージェントを含めた三層構造組織モデルにおける契約設計問題を考察する.Tirole (1986)では単一エージェントの場合のみが扱われているのに対し,われわれのモデルでは,一般的な費用関数の下で,複数エージェントが考慮される.これにより,Laffon and Tirole (1993) ,Laffont and Martimort (1997)等で考察された研究を,複数エージェントと一般的な費用関数を考慮したモデルへ拡張する. さらに,静学的な場合に密接に関連する研究として,動学的な契約設計問題を考察する.アドバース・セレクションの下での動学的な契約設計については,Laffont and Tirole (1993) 等によって,単一エージェントの場合に関して理論的研究がなされてきた.本研究は,より一般的な費用関数の下で,複数エージェントの場合の動学的契約について理論的な拡張を行い,長期契約と短期契約の関係および再交渉の効果について考察する. 今後は,当初計画において示した主要な研究課題のうち,エージェントの一部に契約の権限を移譲するヒエラルキー型の組織形態の下での契約問題を研究する.Mookherjee and Tsumagari (2004)等では扱われていない固定費用を考慮に入れる. 基本モデルをエージェントのタイプに関する分布が連続的な場合に拡張し,複数エージェントのアドバース・セレクション問題を考察する研究を行う.Maggi and Rodoriguez-Clare (1995)で扱われた相殺インセンティブの問題を複数エージェントの場合へ拡張することにより,情報分散と情報連結の問題および相殺インセンティブの問題を同時に連続分布の下で分析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,主として,ヨーロッパで開催される国際学会において研究発表を行う予定であったものの,当該地域における治安の不安定さを考慮した結果,当該年度は,アジアで開催された国際会議において,複数エージェントの下での最適契約と組織構造に関する研究発表を行った.このため,当初予定していた支出額と比較して,旅費等が低く抑えられたことにより,次年度使用額が生じることとなった. また,当初計画で導入を予定していたPCおよび関連ソフトウェアに関しては,当該年度における購入から次年度の支出で対応することに変更した結果,次年度使用額が生じることとなった.これは,私的情報を有する複数エージェントが存在する場合に関する複雑な動学モデルの考察に関しては,現在使用中の機種と比較して基本性能が格段に向上した機種の導入が必要であるため,次年度に新機種を購入することがより適切であると判断したためである.
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次年度使用額の使用計画 |
第一に,次年度においては,複数エージェントと組織構造問題および不完備契約の下でのモニタリング問題に関する研究論文数編を基に,ヨーロッパおよびアメリカで開催される国際会議において研究発表を行うことを予定している.当該研究発表に必要な旅費等に使用する計画である. 第二に,次年度においては,私的情報の分布が連続的な場合における動学モデル研究の進捗状況に対応して,PCの新規機種,関連機器およびMathematica等の数理ソフトウェアを購入する予定である.当該物品の購入のために必要な物品費として支出する計画である. さらに,上記の次年度使用額の他、本年度末に出版が予定されていたメカニズム・デザイン理論,契約理論,ゲーム理論および微分方程式関係の洋書購入に関して,次年度における物品費として支出する計画である.
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