本研究の主たる目的は,海上輸送産業におけるマークアップとリスクプレミアムの計測し,それによって市場成果の評価することである.具体的には,海上輸送のサービスが共通してもつ「貯蔵不可能な財」などの性質に着目し,不確実性下における企業行動のモデル・ビルディングを行い,均衡価格式を導出する.そして,導出された式から価格と限界費用の乖離を①市場参加者が要求するリスクプレミアムの部分と②市場の集中等に伴うマークアップの部分とに要因を分解した上で,これを実証的な枠組みでも適用し,市場成果を評価する,というものである. 最終年度の平成29年度は,これまでの成果を公表することに重点を置いた.第1に,本研究で導出された価格式について,貯蔵不可能性という海運と共通の性質をもつ電力の市場にこれを適用し,論文を作成した.この論文は,2017年12月に関連する学会誌に投稿した.第2に,価格式の上で,要因分解の対象となったリスクに対する態度について,ある均衡価格式をもとにこれを計算し,その推移を示すとともに政策的な解釈を付与する形で論文を作成した.この論文は,Maritime Policy and Management誌に投稿され,平成29年2月に受理されるに至った.第3に,これまでの成果をもとにした成果報告会の開催について,関連する事業者(海運事業者)や事業者団体とのシンポジウム開催を平成30年度内に実施することを取り決めた.これは,日本海運経済学会等との共催という形で,平成30年の8月から9月ごろに開催することを予定している.最後に,定期船市場に対してこの価格式を当てはめた論文を現在作成中であり,平成30年度内の論文の完成・投稿を目指している.
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