研究期間の最終年度は、主に都市ガス産業での公営事業者の民営化に関する分析を行った。1990年以降の規制緩和の時期に多くの公営事業者が事業譲渡によって民営化を行ったが、こうした民営化が自治体財政に与えた影響について定量分析を行った。1990年時点で公営ガス事業を行っていた全国の自治体を対象に1990~2010年までのパネルデータを利用して、自治体の財政指標を説明する固定効果モデルを推定した。推定に際しては人口と製造品出荷額の影響をコントロールしたうえで市町村合併やガス事業民営化の内生性を考慮した。この結果、公営ガス事業の保有の有無によって有意な差がでたのは財政力指数、実質収支比率、経常収支比率であった。財政力指数については公営ガス事業を保有している時期の方が高く、逆に実質収支比率と経常収支比率は低いという結果である。この結果に基づくと公営ガス事業を事業譲渡して合理化を進めても地方財政の財政力指数が直接的に高まるとは言えない。ただし実質収支比率は公営ガス事業の譲渡以降に増加したと言え、財政上の余力は改善したと考えられる。一方で経常収支比率も譲渡後の期間に上昇しており、人件費や公債費といった固定的な費用負担は増加傾向にあることが分かった。この結果についてはガス事業研究会(東京ガス)の研究報告書に論文として掲載している。 また、昨年度までの都市ガス産業への新規参入に関する分析を発展させた研究論文を公益事業学会学会誌に投稿・掲載した。更にエネルギー産業に関連する研究としてこれまで継続していた太陽光発電の普及と補助金政策の効果に関する英論文を国際学術誌であるJournal of the Japanese and International Economiesに投稿・掲載した。
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