2018年度は日本‐メキシコ(2004年発効)自由貿易協定の効果に関する論文の再計算,再検討と日本‐チリ(2007年発効)経済連携協定に関する論文の最終稿の完成に向けて作業を進めた。前者は既存の輸出品の増加(Intensive Margin)と新たな輸出製品の出現(Extensive Margin)に分けて理論的・実証的に分析したもので,貿易自由化政策はIntensive marginを拡大する一方,Extensive marginは統計的には出現しないという結論であった。また後者はリカードの連続財比較優位モデルを改良したもので,チリの関税率が6%で一律であることを考慮した実証研究である。リカードの連続財モデルは他のほとんどすべての理論同様単一関税率を前提とした理論なので,これまで実際のデータで検証することが難しかった。実際の関税率は品目ごとに関税率が大きく異なるからである。しかし,チリの関税率は一律であるため貿易自由化の効果を測る際に,連続財リカードモデルを使用することができる。 前者の実証結果はExtensive marginとIntensive marginがともに輸出の拡大に大きく寄与している一方,比較優位構造にも変化が生じているというものであった。この論文は英文雑誌に投稿後,審査員から詳細なコメントをもらったので,それをもとに書き直しを進めているところである。後者は最終稿が完成し,2018年3月にニュージーランドのオークランドで開かれたAustralasian Trade Workshop 2018で発表した。両論文とも完成版が経済産業研究所(RIETI)のDiscussion Paperとして公刊されている。後者の論文は貿易自由化が短期的にも比較優位構造の変化をもたらし,貿易の拡大に寄与することを明らかにした点で,この分野への学問的貢献があると考えている。
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