研究実績の概要 |
本年度の研究では、南アジアと東アジアの経済発展および生産性格差、また産業構造変化と労働移動に関する先行研究をレビューするとともに、Rodrik(2013, 2015)などを参考に産業部門間における生産性格差について予備的な実証分析を行った。産業構造変化と産業部門間における労働生産性の違いについて、世界銀行の国際開発指数(World Development Indicators)のデータベースからアジア太平洋地域の15か国をサンプルとしてデータ分析を行った結果、これらのデータで脱工業化が示唆されること、また脱工業化の時期が早まっていること、すなわち相対的に低い所得レベルで脱工業化が始まり、いわゆる中所得国の罠がアジア地域でもみられることが示された。特に、東アジアと比べて南アジアでは低い所得レベルで脱工業化が始まっていることが記述データ分析では示されている。なお、アジア太平洋地域における労働生産性(労働者一人あたりGDP)の増加にはグローバリゼーションの擬似変数となりえる貿易の自由度(trade openness)がプラスの効果を及ぼしていることがプーリングデータの回帰分析の結果として得られており、他の先行研究を支持する結果となった。 また、産業構造変化に関連する生産要素移動を考察する事例の一つとして国際資本フローにも目を向け、特に日本の政府開発援助の動向についても予備的な考察を行った。 参考文献 Rodrik, Dani (2013), “Unconditional convergence in manufacturing”, Quarterly Journal of Economics, 128: pp.165-204. Rodrik, Dani (2015), “Premature deindustrialization (revised)”, mimeo.
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