研究課題/領域番号 |
15K03480
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
大坂 仁 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アジア / 生産性 / 産業構造 / 労働移動 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では昨年度に引き続き、南アジアと東アジアの経済発展および生産性格差、また産業構造変化と労働移動に関する先行研究レビューを行った。本年度の先行研究レビューは大きく2つに分けることができる。まず、昨年度に引き続き、産業構造変化については脱工業化の問題が挙げられる。多くのアジア途上国では先進国と異なって所得水準が十分な水準に達する前に脱工業化が始まっており、経済成長が鈍化している国も少なからずみられる。いわゆる中所得国の罠についてはこれまでに数多くの先行研究が報告されており、既に幾つかの要因も指摘されている。例えば、Eichengreen-Park-Shin(2013)では中等教育および高等教育が充実しており、また高度技術製品の輸出割合が高い国では成長鈍化がほとんどみられないことが示されている。また、Eichengreen-Park-Shin(2012)は過小評価された為替制度は外的ショックに対して脆弱であり、所得水準の低い途上国の経済成長にはリスク要因になることも示している。 次に、労働移動に関してはグローバル経済化のもと自由化促進が経済的にプラスにもマイナスにもなりえることをBorjas(2015)が示している。Borjasは労働移動の自由化促進が南北間で賃金の均等化をもたらし経済成長に寄与すると同時に、移民の増加は受入国にとって非生産的な慣習をもたらしうるなど負の側面があることを指摘している。アジアにおける労働移動の経済成長への寄与については、Thangavelu(2012)がシンガポールのケースについて述べており、またシミュレーションによって地域全体の展望を行っている。 本年度の研究ではデータ制約もあり実証分析には至らなかったが、先行研究レビューを通して得られたこれらの知見を次年度の研究では計量的に分析し明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は初年度に引き続き、次の2つの項目について研究の実施を試みた。 1.南アジアと東アジアの産業構造変化と労働移動に関する文献・先行研究レビュー 2.南アジアと東アジアの労働移動と産業構造変化に関する理論および要因分析 まず、産業構造変化と労働移動に関する文献収集や先行研究レビューは比較的順調に進んだが、一方でこれらを踏まえた理論および要因分析は当初の予定から遅れることになった。特に、要因分析においてはデータ制約により研究は大幅に遅れることになった。先行研究レビューでもみられるとおり、データ分析ではRodrik(2015)のように国際データを用いたものが少なくなく、南アジアや東アジアの地域に焦点をあてた研究資料の収集については容易でなかった。今後は時間的な制約も考慮して、経済学関連の主要な学術論文ジャーナルに加えて、世界銀行やIMFなどの国際機関におけるワーキングペーパーや報告書にも範囲を広げて資料収集を行い研究の遅れを取り戻すことを考えていく。 なお、データ制約の問題では、特に労働移動に関するデータの入手に手間取ったが、最近になって先行研究で用いられたデータが世界銀行のホームページから入手できることがわかり、今後の分析に利用することが可能となった。これに加えて、今後も国際機関や各国の関連部署を積極的に訪問するなどしてデータ収集を行う必要がある。これらの状況を合わせて考えると、平成28年度の研究は全般的に遅れており、自己評価としては上記のとおり(3)の評価区分に該当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は昨年度に取り掛かることのできなかった分析項目のうち、南アジアと東アジアの労働移動と産業構造変化に関する理論および要因分析をはじめに行うこととし、次にこれらの事例分析を行っていく。具体的な分析項目は次の2つである。 1.南アジアと東アジアの労働移動と産業構造変化に関する事例分析:インドと中国 2.南アジアと東アジアを含むアジア広域経済圏の形成と経済協力に関する考察 これらの分析を遂行していく上で、昨年度に引き続き関連する文献や先行研究レビューを行っていくが、特に実証分析に重点をおく。要因分析についても関連するデータを継続して収集していくとともに回帰分析など計量的な検証も試みる。なお、グローバル化の進展により労働移動をはじめとする生産要素移動がアジア広域にわたる経済圏の形成にどのような影響を与えているのかについても考察していく。また、これらに加えて日本の地域経済発展における経済協力のあり方についても検討していく。
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