研究課題/領域番号 |
15K03480
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
大坂 仁 京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 労働移動 / 国際移民 / アジア経済 / 所得格差 / 回帰分析 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、昨年度に取りかかることのできなかった研究項目のうち、東アジアと南アジアの労働移動に関する文献および先行研究レビューを行った。先行研究では経済のグローバル化が進む中、国際的な労働移動の自由化は効率性の拡大と海外送金による所得の増大に寄与すると位置づけられている。まず、効率性の拡大では国際労働移民の増大によって非移民労働者(現地労働者)の賃金に影響が生ずるものの、地域の生産性にプラスの効果があることが考察されている。 次に、東アジア地域と南アジア地域の国際労働移動に関する初期的な実証分析として、世界銀行の国際移民データ(Global Migration Database)を用いて国際移民の決定要因について記述データ分析および予備的なOLS分析を行った。記述データ分析では、1960年から2000年にかけて東アジア・太平洋地域では移民数が移動元と移動先の双方で拡大しているものの、南アジアでは移民数が移動元としては微増しているものの移動先としては減少していることが観測されている。また、プーリングデータを用いたOLS分析では、アジアにおける移民の重要な決定要因として、プラスの影響として移動先の同胞の移民数が挙げられ、マイナスの影響として移動コストともいえる地理的距離が挙げられた。なお、地域ダミー変数のマイナスの統計的有意性は南アジアで移民数が減少傾向にあることも示している。なお、頑健な結果ではなかったものの地域間での所得格差や人口動態の変化も移民数の動向に影響を及ぼしうることも示唆する回帰結果が得られている。これらは先行研究のHatton and Williamson (2002)やTuccio(2017)などと同様な帰結でもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度は昨年度に引き続き、次の2つの項目について研究の実施を試みた。 1)南アジアと東アジアの労働移動と産業構造変化に関する事例分析:インドと中国 2)南アジアと東アジアを含むアジア広域経済圏の形成と経済協力に関する研究 まず、研究実績で既に報告しているように、平成29年度はアジア地域(南アジア地域と東アジア地域)の労働移動について先行研究レビューおよび初期的な実証分析を行っている。先行研究レビューは計画通りに進んだものの、初期的な実証分析については当初関連データの収集に時間がかかり、世界銀行のデータである国際移民データ(Global Migration Database)の入手に手間取ることになった。また、初期的な回帰分析では分析フレームワークとしてグラビティ・モデルを用いて分析を進めていったが、準備段階で行った2国間の地理的距離データの入力にも想定以上の時間がかかることになった。このように、回帰分析に至るまでのプロセスでデータ整理などの作業に時間がかかったため、全体的な分析スケジュールに遅れが出ることになった。なお、上記に加えて、平成29年度は事例研究としてインドと中国の労働移動と産業構造変化についても研究をはじめることになっていたが、時間的かつデータ的な制約から分析に取りかかることができなかった。 南アジアと東アジアを含むアジア広域経済圏の形成と経済協力に関する考察については、平成28年度に日本の政府開発援助(ODA)の課題について少し考察を行ったもののそれ以降は研究が進んでおらず、平成30年度は考察を深めていく必要がある。これらの状況を合わせて考えると、平成29年度の研究は全般的に計画より遅れており、自己評価として上記の通り(3)の評価区分に該当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は昨年度に取りかかることができなかった分析項目のうち、南アジアと東アジアの労働移動と産業構造変化に関する事例分析としてインドと中国について分析を行うこととし、次にアジア広域経済圏の形成と経済協力、またこれに関する政策分析を行っていく。具体的な分析項目は次の3つである。 1)南アジアと東アジアの労働移動と産業構造変化に関する事例分析:インドと中国 2)南アジアと東アジアを含むアジア広域経済圏の形成と経済協力に関する考察 3)アジア広域経済圏の持続的な経済成長へ向けた考察と政策提言 これまでに国際移民の決定要因の予備的な実証分析を行ってきたが、労働移動による産業構造変化の検証とともに、今後のアジア広域経済圏の形成を展望するにあたって、国際機関などからの資料・情報をもとに地域内で必要と考えられている経済協力について考察をおこなっていく。アジア地域内での持続的な経済成長へ向けた政策提言については人口動態の変化も考慮していく必要がある。次に、本研究課題の全般的な成果を整合的にまとめ、アジア広域経済圏の形成について考察を深めるとともに、今後の持続的な経済成長へ向けた展望と有意義な政策提言を行う。なお、平成30年度は当該研究の最終年度にあたるため、国内学会で研究報告を行うとともに、国際的な研究集会やコンファレンスなどでも発表の機会を伺う。また、本研究課題による研究成果の公刊を目指すとともに、今後の更なる研究発展に向けて努力していく。
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